意味が変わった外来語
日本語の外来語「グラデーション」は「色や明暗のなめらかで連続的な変化」 を意味します。
この「グラデーション」の大元になったフランス語に「gradation」という単語があるものの、意味が変わってしまっています。
つまり「グラデーション」と言いたい場合に「gradation」は使えないので、ではどう言えばいいのかをご紹介します。
「グラデーション」と「gradation」
2025年9月19日の【フランス語のフレーズ】意味が狭まった外来語㉔グラデーションという配信で、フランス語の「gradation」が英語に入って意味が広がり、その広がった意味だけが日本語の「グラデーション」になったとお伝えしました。
つまり日本語の「グラデーション」とフランス語の「gradation」は、意味が異なります。
例えば「青のグラデーション」なら、濃い目の青が徐々に白に溶けるように薄い色に変化し、境目が見えないなめらかな状態で変わっていく様子を表します。
ですが、「gradation de bleu」と言えば、濃い目の青が段階的に薄い色に変化し、比較的境目がはっきりしたカクカクとした状態で変わっていく様子を表すのです。
要するに、日本語の「グラデーション」は「色や明暗のなめらかで連続的な変化」を、フランス語の「gradation」は「段階的な変化・移行」を表すので、「グラデーション」をフランス語にするなら、「gradation」ということばは使えないということです。
「グラデーション」のフランス語訳
では、日本語の「グラデーション」をフランス語にするなら、どう言えばいいのでしょうか?
「dégradé」という単語を使えば、日本語の「グラデーション」の持つ「色や明暗のなめらかで連続的な変化」を表せます。
「dégradé」は形容詞として多く使われる単語ですが、名詞である「グラデーション」のようにも使えます。
- Un dégradé de couleurs.
(色のグラデーション)
この「dégradé」を「gradation」で言い換えてしまうと、少々意味が変わってしまいます。
- Une gradation de couleurs.
(色の段階的な変化)
「dégradé」を使えば「なめらかで連続的な変化」になるのですが、「gradation」だと「カクカクとした段階的な変化」なので、厳密に言えば「グラデーション」ではなくなってしまうのです。
ちなみに、「dégradé」は男性名詞、「gradation」は女性名詞です。
「dégradé」の成り立ち
さて、「dégradé」も、他の多くのフランス語の単語同様、そのルーツはラテン語にあります。
そしてそのルーツになったラテン語は、2025年9月19日の【フランス語のフレーズ】意味が狭まった外来語㉓グレードという配信でご紹介した、日本語の「グレード」のもとになったフランス語の「grade(階級・等級)」を生み、さらには日本語の「グラデーション」のもとになったフランス語の「gradation(段階的な変化・移行)」にもなりました。
つまり「dégradé」は、「grade(階級・等級)」や「gradation(段階的な変化・移行)」と共通の親を持つ単語だということです。
ルーツになったラテン語は「段・歩み」という意味で、そこから「grade(階級・等級)」になり、現在でもフランス語の「grade」は同じ意味で使われ続けています。
それが形容詞として使われることの多い「gradé(段階がある・ランク付けされた)」になり、さらに「dégradé」になりました。
なお、「gradation(段階的な変化・移行)」も同じく「grade(階級・等級)」から派生した単語です。
「dégradé」の意味
ところで、「grade(階級・等級)」から生まれた「gradé(段階がある・ランク付けされた)」や「gradation(段階的な変化・移行)」に関しては、「段階」という面が強調されています。
その使い方を見ても、「カクカクとした」イメージがぬぐえません。
それに対し、「gradé(段階がある・ランク付けされた)」に「dé-」がついた「dégradé」には、カクカクしたイメージは薄れ、それ以外の意味でも違いがあります。
前述通り形容詞として使われることが多いものの、例外的に名詞としても使われるので、それぞれの意味をまとめます。
【形容詞として】
- dégradé①「グラデーション的(なめらかで連続的)に変化している」
- dégradé②「悪化した/劣化した」
- dégradé③「階級を下げられた」
【名詞として】
- dégradé④「視覚的になめらかで連続的な変化」
- dégradé⑤「美容の段カット」
つまり「dégradé」は、大元のラテン語の持つ「段」のニュアンスを残しつつ、ポジティブに「なめらかな段階的変化」、ネガティブに「価値・地位が下がる」という、ポジティブ・ネガティブ両方の意味で広がったことばです。
いろいろな「dégradé」
「dégradé」の使用例を挙げておきます。
- Le ciel est dégradé du bleu au blanc.
(空は青から白へグラデーションになっている)
→ dégradé①「グラデーション的(なめらかで連続的)に変化している」
- Sa santé est dégradée.
(彼の容体は悪化している)
→ dégradé②「悪化した/劣化した」
- Un officier dégradé.
(降格させられた将校)
→ dégradé③「階級を下げられた」
- Un dégradé de couleurs.
(色のグラデーション)
→ dégradé④「視覚的になめらかで連続的な変化」
- Elle porte un dégradé.
彼女は段カット(レイヤーヘア)にしている
→ dégradé⑤「美容の段カット」
などがあります。
日本語の「グラデーション」は「色や明暗のなめらかで連続的な変化」なので、あくまでも視覚的、それも色や明暗での意味に限定されているので、
- 形容詞の dégradé①「グラデーション的(なめらかで連続的)に変化している」
- 名詞の dégradé④「視覚的になめらかで連続的な変化」
という、「dégradé」の一部の意味だけが該当します。
ともあれ、「グラデーション」をフランス語にしたいなら、大元になり発音も似ている「gradation」ではなく、「dégradé」を使うとしっくりきます!
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