強調された存在
『星の王子さま』でのバオバブは、すぐに大きくなってしまう恐ろしいもの、まだ小さいからと言って放っておいたら大変なことになるもの、という扱いです。
これが盛んに強調されているのが第5章なのですが、今回のフレーズにも表れています。
そしてこの前段階にある言葉には、和訳すると印象が変わる部分があるので、それも併せてご紹介します。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Les baobabs, avant de grandir, ça commence par être petit.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第5章の中ほどにあります。
第5章1枚目の挿絵から2行目にあるフレーズで、王子さまのセリフです。
「les baobabs, avant de grandir」
「les」は定冠詞複数形、「baobabs」は「バオバブ」を意味する男性名詞「baobab」の複数形です。
「avant」は「~より前に」「~までに」、「avant de +(動詞の原形)」で「~する前に」という意味になります。
動詞の原形部分には、「大きくなる」「成長する」という意味の「grandir」が使われています。
「ça commence par être petit」
「ça」は代名詞で、本来は「あれ/それ」を意味する「cela」の話し言葉です。
「commence」は「始める」という意味の「commencer」の活用形(現在形)です。
人・物が主語の「commencer par +(動詞の原形)」という形で「~し始める」「まず~する」という意味になります。
動詞の原形部分には「être」が使われています。
「petit」は「小さい」「幼い」「かわいい」などの意味です。
背景を見てみると
王子さまは自分の星の厄介者、バオバブの木について話しています。
そもそも王子さまが男性に羊の絵を描いてもらったのは、羊にジャマなバオバブを食べてもらうためでした。
バオバブは大きくなると手に負えなくなるので、小さなうちに駆除する必要があるのですが、王子さまは本当に羊が小さな木を食べるのかどうかが気になります。
男性は食べると言ったので王子さまは喜びましたが、男性は「バオバブは小さな木ではない」ということも言います。
その言葉に対する反論が、今回のフレーズです。
恐いバオバブ
ここで改めて今回のフレーズの構成を見てみると、このフレーズには「,(カンマ)」が2ヶ所あります。
倒置が起きているからです。
疑問文でもないのに倒置をしている理由は、恐ろしい存在であるバオバブを強調しているからです。
なので「Les baobabs, avant de grandir, ça commence par être petit.」というフレーズの倒置を止めてみると、
「Avant de grandir, les baobabs commencent par être petit.」になります。
ここでの注意点は、主語が「ça」から「les baobabs」という複数の名詞になったので、動詞の活用も変わることです。
3人称単数の「commence」から、3人称複数の「commencent」へと変化しています。
和訳との違い
なお、背景の詳細で触れた男性の言葉「バオバブは小さな木ではない」にある「小さな木」という部分は、バオバブのような「大きな木」とは別の単語で区別されています。
このシリーズの第257回でご紹介した、「arbuste(低木)」と「arbre(大きな木)」なのですが、フランス語ではそもそも別の言葉で表されていて違うものであるという認識があります。
日本語で「大小」を形容するよりも、インパクトがあるのです。
もちろん同じ種類の植物だという認識はあります。
それでも「arbuste(低木)」は家の庭にあるような、自分でも簡単に扱えるようなイメージがある一方で、「arbre(大きな木)」だと、容易にはコントロールできないという印象があるのです。
そうした「arbre(大きな木)」の中でも、とりわけ巨大化してしまうバオバブは、和訳すると恐ろしさが薄まってしまうような、一人の人間では到底立ち向かえない存在として描かれているのです。
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