【フランスでの生活】映画『Bienvenue chez les Ch’tis』に見る北の人たちの唯一の欠点とは?

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フランス映画は恋愛もの?

「フランス映画」について、あなたがイメージするのはどんな作品ですか? 

古くから国際的に有名で、日本でも公開されているフランス映画には、しっとりとした大人の恋愛ものが多いので、そうした作品をイメージされる方が多いと思います。 

ですが、フランス国内で人気がある作品には、意外とコミカルなものが多いのです。 

今回は2008年に公開され、フランス国内とフランス語圏で爆発的に大ヒットした作品である『Bienvenue chez les Ch’tis』を通して、北フランスの人たちをご紹介します。 

ツウは知っている?

「コミカルなフランス映画」ということに、ピンと来ない方が多いかもしれません。 

私は日本で、かなりの数のフランス映画を観た気になっていたものですが、フランスに来るまで笑えるフランス映画を観たことはなかったと思います。 

ただし「フランス映画通」の方たちは、古くから存在する、観客がどっと笑うような作品が多いことをご存じだったりもします。 

こうした映画は日本でも公開されていたようで、単に私が無知であっただけかもしれません。 

北フランスが舞台

ただし冒頭で触れた『Bienvenue chez les Ch’tis』については、日本未公開です。 

北フランスの中でも、特に「le Nord」と呼ばれる、かつての炭鉱地帯が舞台なのですが、何度も大笑いしてしまう一方で、心温まる展開に泣けるシーンもある作品です。 

この大笑いさせられたり、人のやさしさに触れて泣かされたりというのが、北フランスの人たちに共通する姿です。 

村の郵便配達員

ここで詳細については触れませんが、この映画の舞台は北フランスの小さな村にある郵便局が中心になっています。 

この映画の制作監督・脚本を務めた Dany Boon(ダニー・ブーン)は、この村の郵便配達員という準主役で登場しています。 

主役は、南フランスから赴任してきた郵便局長なのですが、この2人が郵便物を各家庭に届けるシーンがあります。 

ていねいな配達?

この配達シーン、郵便物(手紙)を届けるだけなのに、各家庭の郵便受けに入れておしまい、というスタイルではありません。 

1軒ずつ家の呼び鈴を鳴らし、家の人が出てくるのを待ち、出てきた人とあいさつして郵便物を渡すのですが、それで終わるわけでもないのです。 

なんと配達員は家の中に入り、そこで飲み物が出され、座って談笑までするのです。 

つまり、1軒分の配達をするのに最低でも15分はかかり、30分以上かかる家も少なくない様子です。 

信じられないシーン

実はこの映画では地方なまりが強調されているので、フランス語がわからずに観ると、面白さが半減してしまいます。 

おまけに、この配達シーンに関しては、たとえネイティブのフランス人であっても、北フランスを知らない人が観ると、「オーバーな創作シーン」にしか映らないかもしれません。 

というのも、各家庭で配達員にすすめている飲み物は、すべてアルコールだからです。 

つまり Dany Boon(ダニー・ブーン)が演じる配達員は、すべての家でお酒を飲んでいるので、日中なのにべろべろ状態です。 

主役である、赴任したての局長は、何軒か回った後で「もうお酒は結構です」と断っているのですが、「ならばコーヒーはいかがですか?」とすすめられて家に入って飲むと、それはアルコール入りのコーヒーだった、というレベルなのです。 

唯一の欠点

そう、我慢強くて心優しい北フランスの人たちの、唯一の欠点とも言えるのはアルコールです。 

ごく最近はかなり変わってきたように思いますが、しばらく前までは、親しい間柄の人たちが集まれば、女性であってもお酒が飲めないというのは許されない雰囲気がありました。 

もちろん強制されるわけではないものの、飲まないと「オレの酒が飲めないの?」と言われかねない様子だったのです。 

そのため、楽しく飲んで盛り上がり、アルコールの失敗談にも事欠かず、またそれを聞いては笑い転げる…ということが繰り返されます。 

実話だった!

ちなみに、北フランスで私が実際に聞いたところによると、かつての郵便配達員イコールお酒に強い、という方程式が存在していたようです。 

ある集まりの中で「〇〇さん(故人)はお酒に強かった」と1人が言ったところ、もう1人が「だって〇〇さんは郵便配達員だったから」と言うと、そこにいた全員が妙に納得していたのです。 

北フランスの郵便配達事情を知らない私にしてみれば、話しの展開にまったくついて行けず、文字通りキツネにつままれた状態でした。 

この時は、みんながていねいに説明してくれたのですが、あまりに意外過ぎて半信半疑でした。 

「今は昔」

その数年後、『Bienvenue chez les Ch’tis』でアルコール漬けの配達シーンを見て、ようやく腑に落ちたものです。 

ただしこれも、「今は昔」状態だと思います。 

『Bienvenue chez les Ch’tis』が公開されたのは2008年ですが、ここ数年で特に若い人たちがあまりお酒を飲まなくなっています。 

ということは、北フランスの人たちには欠点がなくなってしまったのでしょうか? 

…などということは、けっしてフランス語では話さないでおこうと思います。 

なぜって、どうせ彼らの酒の肴にされてしまいそうだからです!  

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