無視しちゃダメ?
今回のフレーズには中性代名詞が含まれています。
そもそも日本語にはないものですし、和訳すると意味が消えやすい存在です。
でもフランス語の場合は、これがないと、フレーズの意味が変わってしまうことがあるという例をお見せします。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Tu n’en as rien su, par ma faute.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは第9章後半の会話部分にある、バラの花のセリフです。
「tu n’en as rien su」
「tu」は「きみ」、「n’en」は「ne」の省略形「n’」と「en」が合わさったもの、「as」は「avoir」の活用形(現在形)です。
なお、否定の「ne(の省略形 n’)」は「何も~ない」という意味の「ne ~ rien」の一部です。
「su」は「知る」「知っている」という意味の動詞「savoir」の過去分詞なので、「as(avoir)+(動詞の過去分詞)」で、過去を表す表現です。
「par ma faute」
「par」は前置詞です。
「~を通って」という通過する場所、「~の時に」という時間や時期、「~がもとで」という原因、「~によって」という動作主・手段や道具などを表します。
「ma」は1人称単数女性形所有形容詞「私の」、「faute」は「間違い」「誤り」「過失」「責任」などという意味の女性名詞です。
背景を見てみると
旅立ちの朝、王子さまはバラの花に別れを告げました。
わがままで見栄っ張りなバラの花は、始めのうちは何も言わずにせき込んで見せるだけでしたが、急に自分が愚かだったこと、王子さまが好きだということを認めます。
そして今回のフレーズでは、なぜそれを王子さまが知らなかったのかを打ち明けるのです。
中性代名詞の使い方①
さて、冒頭で触れた中性代名詞とは、「en」のことです。
このフレーズでは「ne」の省略形「n’」と合わさって「n’en」の形になっていますし、ともすると見過ごしてしまいそうです。
中性代名詞は、このシリーズの第187回ですでにご紹介していますが、なんとなくぼやけた存在であることが多いです。
たとえば:
- Tu as des amis ?(友だちいる?)
→ Oui, j’en ai.(うん、いる)
この場合の「en」は「何人かの友だち(des amis)」という「不特定人数の友だち」をぼんやり指し示しています。
ここで言う「友だち」は、1人かもしれないし、100人かそれ以上かもしれないので、ぼやけた存在です。
中性代名詞の使い方②
その一方で「en」は、会話やフレーズで繰り返しを避けるための「省略の合図」としても使われます。
「何か特定の事柄」に関する話題の後は、「en」を使って指し示すという使い方です。
たとえば:
- Tu parles de ce film ?(その映画のこと話している?)
→ Oui, j’en parle.(うん、それについて話している)
この例では「ce film」という特定の事柄を「en」で指し示しています。
このフレーズでの使い方は?
今回のフレーズ「Tu n’en as rien su, par ma faute.」での「en」は、2つ目の「省略の合図」としての使い方です。
背景にある通り、これまでわがままばかり言っていたバラの花は、それまでの態度を一変させて王子さまが好きだと言っています。
なのでこのフレーズ前半の「Tu n’en as rien su(君/あなたはそのことを知らなかった)」で「en」が指しているのは、「バラの花は王子さまが好き」だということです。
今回のフレーズの直前で、すでに「je t’aime(好き)」と言っているので、繰り返しを避けているのです。
なお、このフレーズ後半の「par ma faute」は、「私のせいで」ということです。
意味が変わる?
ちなみに、このフレーズの前半部分「Tu n’en as rien su.」の「en」を取って、「Tu n’as rien su.」にすると、フレーズのニュアンスが変わります。
「何も知らなかった」という意味は同じですが、知らなかった対象がわからないので、より一般的になります。
つまりこの場合なら、「君は全体的に何も知らなかった」や「何も情報を得られなかった」といった意味になります。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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