外来語だから覚えやすい!
今回のフレーズには、不合理なのではないかと思うほど大変身する単語があります。
ということは、「知らないと使えない」のですが、とても覚えやすいコツがあります。
実は、よく知られている、ある外来語の由来になった言葉だからです。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「et qu’un petit mouton peut anéantir d’un seul coup, comme ça, un matin, sans se rendre compte de ce qu’il fait,」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは第7章の後半にある王子さまのセリフの一部です。
「et qu’un petit mouton peut anéantir d’un seul coup」
「et」は「そして」、「qu’un」は「que」の省略形「qu’」と不定冠詞単数男性形の「un」が合わさったものです。
「petit」は「小さい」「幼い」「かわいい」など、「mouton」は「羊」を意味する男性名詞です。
「peut」は「pouvoir」の活用形(現在形)です。
「pouvoir +(動詞の原形)」で、「~することができる」「~してもいい」という意味になります。
「anéantir」は動詞の原形で「無に帰させる」「壊滅させる」という意味です。
「d’un」は前置詞「de」の省略形「d’」と不定冠詞単数男性形の「un」が合わさったものです。
「seul」は「唯一の」「ただ1人の」「ただ1つの」、「coup」は「打つこと」「たたくこと」という意味の男性名詞です。
ただし「d’un seul coup」は決まり文句で、「一挙に」「一度に」という意味です。
「comme ça, un matin」
「comme」は、「~のように」「~のような」という意味です。
「ça」は代名詞で、本来は「あれ/それ」を意味する「cela」の話し言葉です。
「un」は不定冠詞単数男性形、「matin」は「朝」を意味する男性名詞です。
「sans se rendre compte de ce qu’il fait」
「sans」は「~なしに」、ここでの「se」は再帰代名詞、「rendre」は「~を返す」「~を返却する」という意味ですが、再帰代名詞の「se」を伴なう代名動詞になると、他の動詞よりも意味が激変するので、後述します。
「compte」は「数えること」「計算」「勘定」などの意味の男性名詞ですが、「se rendre compte de ~」の形で「~であることに気づく」「~であることをを理解する」という意味です。
ここでの「ce」は「何を」を意味する「ce que ~」の一部です。
「qu’il」は「que」の省略形「qu’」と「il(彼/それ)」が合わさった形です。
「fait」は「~を作る」「~をする」という意味の「faire」の活用形(現在形)です。
「ce qu’il fait」という形で「彼が何をするのかを」という意味になります。
背景を見てみると
生死にかかわる飛行機の修理にかかりきりの語り手の男性は、羊と花の関係という、大事とは思えない王子さまの質問に対して適当に答え、2人は険悪な状況になってしまいます。
王子さまは、ある星で出会った他の男性について語ることで、男性が忘れかけていたことを思い出させようとしています。
フレーズの全体は「Et si je connais, moi, une fleur unique au monde, qui n’existe nulle part, sauf dans ma planète, et qu’un petit mouton peut anéantir d’un seul coup, comme ça, un matin, sans se rendre compte de ce qu’il fait, ce n’est pas important ça !」です。
今回扱うのは、この長い疑問文の中ほどの部分です。
「Et si je connais, moi, une fleur unique au monde, qui n’existe nulle part, sauf dans ma planète,」はこのシリーズの第332回で、
「ce n’est pas important ça !」は第39回で扱っています。
大変身する単語
さて前述通り、「rendre(~を返す/~を返却する)」に「se」をつけると、他の動詞よりも意味が激変します。
通常なら、再帰代名詞の「se」は「自分に」「自分を」に相当すると考えることで意味が通りますが、「se rendre」に関しては覚えるしかありません。
というのも、「se rendre」になると「~に行く」「~に赴く」のように大きく意味が変わり、さらには「~に降伏する」などの意味まであるからです。
再帰代名詞のない例文とある例文をご紹介します。
例文
「rendre(~を返す/~を返却する)」
- Je rends le livre à la bibliothèque.
(私はその本を図書館に返却する)
「se rendre(~に行く/赴く/~に降伏する)」
- Je me rends à Paris.
(私はパリに行く) - Ils se rendent à l’ennemi.
(彼らは敵に降伏する)
注意点と類義語との違い
再帰代名詞は、例文にある通り主語によって変化します。
3人称は単数・複数とも「se」ですが、1人称単数の「je」が主語なら再帰代名詞は「me」または「m’」になるという具合です。
詳細は、このシリーズの第140回にあります。
なお「私はパリに行く」と言いたいなら、通常は「Je vais à Paris.」と言います。
この方がシンプルで、よく使われる言い方です。
「Je me rends à Paris.」という言い方は少々形式的で、「何らかの目的があって行く」というイメージがあります。
出張や会議など、仕事上の都合で行くという場合に使われる表現です。
覚えやすくする外来語
なお、「se rendre」を「~に行く/赴く」と覚えるために便利な外来語とは「ランデブー」です。
日本語にはかなり以前に取り入れられた外来語ですが、最近はあまり使われなくなって死語に近いかもしれません。
日本語の「ランデブー」は、「恋人同士の逢い引き」といった意味で、時代背景上「男女の秘めごと」というニュアンスまであった言葉です。
ただし由来になったフランス語の「rendez-vous」には、単なる「待ち合わせ」という以上の意味はありません。
例えば病院などの予約も「rendez-vous」と言われます。
でも、この「rendez-vous(待ち合わせ)」がなぜ「se rendre(~に行く/赴く)」につながるのかと言うと、この言葉の元になっているのは命令形の「rendez-vous !(赴きなさい)」だからなのです。
変化の順番
少しわかりにくくなってしまったので、時系列順に整理します。
- rendez-vous !(赴きなさい)
- rendez-vous(待ち合わせ)
- ランデブー(恋人同士の逢い引き)
「rendre(~を返す/~を返却する)」と「se rendre(~に行く/赴く/~に降伏する)」が覚えやすくなっていれば、幸いです!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
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