省略には理由が必要!
今回のフレーズには主語がありません。
フランス語で主語を省略することはあまりなく、それなりの理由が必要です。
省略しない元の形を考えてみることで、フレーズの成り立ちだけでなく、ニュアンスの違いまでもが見えてきます!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Attendre quoi ?」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第6章の始めにあります。
第6章の最初の段落のすぐ後の会話部分にあるフレーズで、王子さまのセリフです。
「attendre quoi」
「attendre」は動詞の原形で「待つ」「待ち受ける」「期待する」などの意味です。
「quoi」は「何」という意味で、疑問代名詞の「que」の強勢形です。
場合によっては、日本語で興奮した際に使われる「なんだって?」程度の強い意味になります。
背景を見てみると
自分からはいろいろと聞いてくるくせに、語り手の男性の質問には答えない王子さまですが、星での暮らしについて話すようになりました。
男性は、王子さまが何気なく話した内容をもとに、星での王子さまの唯一の気晴らしは日没を眺めることだったことに気づきました。
「日没を見に行こう」という王子さまに、男性は「(日没まではまだ時間があるから)待たなきゃ」と答えます。
それに対する王子さまの反応が、今回のフレーズです。
なぜ原形?
ところで背景にある通り、今回のフレーズは王子さまのセリフなのですが、なぜか唐突に、動詞の原形「attendre」から始まっています。
でもこれは、このフレーズの直前にある、語り手の男性のセリフ「Mais il faut attendre…(でも、待たなきゃ…)」を受けているからです。
「il faut +(動詞の原形)(~しなければならない)」に使われている「attendre」を受けて、そのまま使っているから原形なのです。
「quoi」
そして「quoi」は疑問代名詞の「que」の強勢形とご紹介しましたが、ここでは「attendre」の目的語になっています。
つまり今回のフレーズは「待つって何を?」ぐらいの意味になります。
王子さまと語り手の男性という、親しい間柄の会話なので、
「Mais il faut attendre…(でも、待たなきゃ…)」
への反応が
「Attendre quoi ?(待つって何を?)」
になるのはごく自然で、これ以上のセリフはあり得ません。
主語と述語は?
でもここで、あえて主語を省略せず、「何を待たなければいけないの?」というフレーズにするには、どうしたらいいでしょうか?
主語と述語は、前述の語り手の男性のセリフ「Mais il faut attendre…(でも、待たなきゃ…)」を受けた形なので、「il faut attendre(待たなければいけない)」になります。
ただしこの「il」は意味を持たない形式上の主語なので、和訳すると主語が消えてしまいます。
このシリーズの第229回でご紹介している通り、「il faut ~(~なければならない)」はお決まりの使い方で、主語になるのは意味を持たない「il」だけです。
疑問代名詞の「que」
そして気をつけたいのは、「quoi」は疑問代名詞の「que」の強勢形だということです。
つまり「que」を疑問文で使うので、「est-ce que」を伴なった形である「qu’est-ce que」が文頭に来るということです。
「qu’est-ce que」は、「Qu’est-ce que c’est ?(これは何ですか?)」などで有名な形ですね!
すると、「Qu’est-ce qu’il faut attendre ?(何を待たなければいけないの?)」になります。
ポイントは、「que」の次に母音から始まる単語が来ているので、2つとも「qu’」の形になるということです。
省略しないデメリット
…ここまで「省略しない本来の形」ということで考えてきました。
それでも、今回のフレーズ「Attendre quoi ?(待つって何を?)」がこのシーンのセリフとしてベストであるのは、変わりません。
もちろん、王子さまと語り手の男性という人間関係だからなのですが、このフレーズを「Qu’est-ce qu’il faut attendre ?(何を待たなければいけないの?)」にしてしまうと、若干ニュアンスが変わってしまうというデメリットもあるのです。
背景から、王子さまと男性が待たなければならないのは日没だと分かるのですが、今回のフレーズ「Attendre quoi ?(待つって何を?)」で聞いているのは、日没そのものというよりも、どちらかと言うと「日没を待つ理由」です。
でも主語をつけて「Qu’est-ce qu’il faut attendre ?(何を待たなければいけないの?)」とすることで、聞いているのは「日没そのもの」に限定されてしまうのです。
まるで意味のないはずの主語に、意味があったかのような変わりようです。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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