悲しみの表現
今回のフレーズからは深い悲しみが伝わってきます。
とても文学的で美しい表現です。
普段の会話でよく使われる悲しみの表現とのニュアンスの違いもご紹介します。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「J’éprouve tant de chagrin à raconter ces souvenirs.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第4章の終わりにあります。
第4章最後の段落の2つ目にあるフレーズで、語り手の男性による説明部分です。
「j’éprouve tant de chagrin」
「j’éprouve」は「わたし」を意味する「je」の省略形「j’」と、動詞「éporouver」の活用形(現在形)「éprouve」が合わさったものです。
「éprouver」は、人が主語で「(人の能力やモノの価値などを)試す」「(喜怒哀楽・欲求などを)感じる」などの意味です。
「tant de +(無冠詞の名詞)」の形で数や量が多いことを表します。
「これほど多くの~」「そんなにたくさんの~」という意味になります。
「chagrin」は男性名詞で「悲しみ」「傷心」という意味です。
「à raconter ces souvenirs」
「à」は前置詞、「raconter」は動詞の原形で、(できごと・物語などを)「語る」「物語る」という意味です。
「ces」は「ce」の複数形です。
「ce +(名詞)」の形で「この(その・あの)」という意味になります。
「souvenirs」は「記憶」「思い出」「記念品」「旅行土産」などの意味の男性名詞「souvenir」の複数形です。
背景を見てみると
王子さまの星はとても小さいということがわかり、そしてその星はおそらくB612という小惑星だと、語り手の男性は考えています。
このお話しは、本当はおとぎ話のように始めたかった、そして軽々しく読んで欲しくないと、男性は言っています。
「やり切れないほど悲しい」
今回のフレーズにある「j’éprouve tant de chagrin」という言い方はとても文学的です。
「深い悲しみを感じる」ということですが、「à raconter ces souvenirs(思い出を語る)」ことが、非常に悲しい経験であるということを強調しています。
「tant de chagrin」の部分が 「tant de +(無冠詞の名詞)」で「これほど多くの~」「そんなにたくさんの~」という意味ですし、名詞は「chagrin(悲しみ/傷心)」です。
「やり切れないほどの悲しみ」のように訳す人もいるかもしれません。
会話なら
普段の会話で「悲しい」と言うなら、「être triste」を使う方が一般的です。
今回のフレーズを言い換えるなら、「それほどまでに」、強調の「実に」「本当に」という意味の「tellement」を加えると、近い意味になるでしょう。
「Je suis tellement triste à raconter ces souvenirs.」というところでしょうか。
程度を表す表現は他にいくつもあり、代表的なものはこのシリーズの第206回でご紹介しています。
話す人やシチュエーションにより、他の副詞を使う場合もあると思います。
2つの違いは?
前述通り、今回のフレーズにある「j’éprouve tant de chagrin」は、非常に悲しい経験であるということを強調しています。
それに対して、一般的な会話でよく使われる「je suis tellement triste」という言い方は、強調語である「tellement」がついてはいても、悲しみを感じているという事実を伝えているだけにすぎません。
ただし会話には、文学作品にはない、身振りや声のトーンなどの表現が伴うので、これで十分かもしれません。
「raconter」の類義語
なお、今回のフレーズにある「raconter」によく似た動詞として、「parler」があります。
どちらも「話す」という意味が含まれているのですが、この2つの動詞の違いは、このシリーズの第212回でご紹介しています。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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