1つの単語でいろいろな生物に!
今回のフレーズにある「bête」は、意味の幅がかなりある単語です。
1つの単語で「野獣」にも「虫」にもなるのですが、「大きい」「小さい」などの形容詞がついていても、必ずしもサイズ感と一致しない不思議なことばです。
いろいろな生物「bête」をご紹介します。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Quant aux grosses bêtes, je ne crains rien.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは第9章後半の会話部分にある、バラの花のセリフです。
「quant aux grosses bêtes」
「quant」は前置詞の「à」を伴なった「quant à ~」という形で「~については」「~はどうかと言えば」という意味になります。
ここでは前置詞の「à」と定冠詞複数形の「les」が合わさった「aux」になっています。
「grosses」は「大きな」「太った」などの意味の形容詞「gros」の複数女性形です。
「bêtes」は「動物」「けもの」「家畜」「(小さな)生物」「虫」という意味の女性名詞「bête」の複数形です。
「je ne crains rien」
「je」は「わたし」、ここでの「ne」は「何も~ない」という意味の「ne ~ rien」の一部です。
「crains」は「(人・モノを)恐れる」「(事柄を)心配する」という意味の「craindre」の活用形(現在形)です。
背景を見てみると
旅立ちの朝、王子さまはバラの花に別れを告げました。
わがままで見栄っ張りなバラの花は、時にはウソをついて自分のことを大きく見せようとしたりしていましたが、急に自分の気持ちを打ち明けて謝罪までします。
王子さまは、バラの花が大嫌いだと言っていた風や、虫が来ることも心配するのですが、それまでと打って変わって、花は気丈に振る舞います。
このフレーズでの意味
では「bête」という単語を見ていきます。
今回のフレーズでは、「grosses bêtes」という形容詞つきの複数形で使われています。
女性名詞の「bête」が複数形なので、「gros(大きな/太った)」という形容詞も複数女性形になっています。
ここでの「grosses bêtes」は、第8章でバラの花が話していた「les tigres(トラ)」を受けたものです。
つまりここでの「bête」に関しては、トラなどの「野獣」もしくは「大きな動物」という意味です。
「grosse bête」
ただし「grosse bête」が、必ずしも「野獣」や「大きな動物」だとは限りません。
例えば小さな女の子が、部屋の中に3センチほどのクモがいるのを見つけたとします。
すると彼女はこう叫ぶでしょう。
- Au secours ! Il y a une grosse bête !
(助けて!大きな虫がいる!)
パパはヒーロー!
そして叫び声を聞いてやって来た父親が、クモを追い出しながら言うのは、
- Oh là là, c’est une minuscule araignée ! C’est rien !
(なんだ、チビっちゃいクモじゃないか!何でもないよ!)
形容詞はあてにならない?
「grosse bête」という言葉は、トラやライオンなどの野獣という意味にも、大きめの虫という意味にもなり、それは人や状況などによります。
「grosse bête」の反対語は「petite bête」ですが、同じように「小動物」という意味にも、「ごく小さな虫」という意味にもなります。
つまり、形容詞のサイズ感がそのまま「bête」の大きさに当てはまるわけではないのです。
『美女と野獣』
ところで、『美女と野獣』と訳されるお話しの、フランス語の原題は『La Belle et la Bête』です。
何世紀も前からあるこのお話しですが、有名になったのは20世紀後半からです。
内容を知らずにフランス語のタイトルだけを見れば、『美女と野獣』なのか『美女と虫』なのかはわからないということですよね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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