不完全なフランス語も
今回は2つのフレーズを扱います。
背景については、特に後半で詳しくご紹介しますが、この2つのフレーズは少々変わった状況でのセリフなので、1つ目はすぐにでも使えるものの、2つ目は途切れてしまっています。
フランス語は論理的な言語ですが、使われる状況によっては、このように途切れて不完全な場合もあるのです。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回の「N’importe où.」と「Droit devant lui…」の場所と背景を確認しておきます。
この2つのフレーズは続いており、第3章の終わりにあります。
第3章では、王子さまと語り手の男性の会話が続き、最後は小さな星に立つ王子さまの絵で終わっています。
今回の2つは、終わりから数えて5行目にある、語り手の男性のセリフです。
「n’importe」
「n’importe」は、「ne」と「importe」がつながった形です。
「ne」には否定の意味があります。
「importe」は「重要である」という意味の動詞「importer」の直説法現在3人称単数の活用形なのですが、主語が省略されています。
省略されているのは、前回(第30回)でも登場した「il」なのですが、今回の「il」も前回同様、意味を持っていません。
なお、前回の「Il y a ~」の「il」はあまり省略されませんが、今回の「il」は省略されるのが普通であり、逆に省略しないと意味が分からなくなるぐらい不自然です。
「n’importe」の意味
この主語が省略された「n’importe」は、よく使われる決まった形です。
後ろに来るものがある程度決まっていて、今回の「N’importe où.」もそのうちの1つです。
ですので、後ろに来るものとセットで覚えるように勧められることが多いと思いますが、覚えるものの種類が多すぎると、つらいですよね?
私自身は「n’importe ~」は「ne」と「importe」がつながっていることから、「~は重要ではない」→「~でもいい」「~でも構わない」と頭に入れました。
「où」
「où」は場所の疑問詞で、意味は「どこ」です。
「N’importe où.」全体の意味は「どこでもいい」「どこでも構わない」です。
「droit」
「droit」は、「まっすぐな」「直線の」を意味します。
「devant」
「devant」は、「~の前」を表す前置詞です。
「lui」
「lui」は、「彼」「それ」を表す3人称代名詞男性形単数「il」の強勢形です。
「彼」とは?
冒頭で触れたとおり、2つ目のフレーズ「Droit devant lui…」には動詞がなく、「…」で終わっている不完全なフレーズです。
このフレーズのある第3章の終わりは、第2章で語り手の男性が描いた羊の絵というより、箱の絵の中の羊について話しているシーンです。
人里からはるかに離れた砂漠のまんなかで、こわれた飛行機以外には何もないところなのですが、王子さまの頭の中にある風景は、自分の小さな星。
それに対して、語り手の男性の頭の中には、砂漠ほど何もないところではなくとも、もっと広い景色が広がっているはずです。
そんな2人の会話がかみ合うはずもなく、王子さまは羊を野放しにするつもりですし、そんな男性は羊がどこかへ行ってしまいはしないかと、事情も知らずに心配しているのです。
そう、ここで語られる「lui」は、箱の中にいるはずの羊のことですね。
つぶやいている姿と状況を想像すると
つながれていない羊が逃げてしまわないかと心配な男性に対して、王子さまは「どこに行くって言うの?」と言い、その答えが今回の2つのフレーズです。
男性は「N’importe où.」に続いて「Droit devant lui…」と答えていますが、男性の認識している場所は、当然地球上なので、小さな羊などどこにでも行ってしまいそうですし、それがどこかと聞かれても、羊の思うがまま、ということですよね?
男性がつぶやくように答えている姿が想像できます。
「N’importe où.」で「どこでも」。
「Droit devant lui…」は直訳なら「彼の前をまっすぐ」ですが、あなたはどう思いますか?
特に2つ目に関しては、和訳する必要はありませんので、単語を1つずつ振り返ったり、語順を確認したりしながら、フランス語のままでイメージをふくらませてみてください。
目の前の砂漠と王子さまの小さな星。
感性は似ていても、環境があまりにも違いすぎる2人のちぐはぐな会話は、まだまだ続きます。
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