【フランス語のフレーズ】意味が狭まった外来語㉟ベスト(衣服)

フレーズ

意味の広がりや違いを感じよう!

日本で広く使われている外来語には、フランス語由来のものが少なくありません。

外来語があることでフランス語の単語が覚えやすくなる反面、本来の意味が抜け落ちたり、変わってしまうことすらあります。

外来語・元の単語の両方を知って、意味の広がりや違いを感じてください。

第35回目は、「ベスト(衣服)」です。

日本語の「ベスト」

「ベスト」には「ベストな選択」のように使われる「最高」「最良」という意味の単語もありますが、今回扱うのは衣服としての「ベスト」です。

日本語の「ベスト」は英語由来ですが、元になったのはフランス語です。

「ベスト」と言えば、袖のない上着のことを指しますが、同様の衣服には「チョッキ」という言い方もあります。

  • ベスト「袖のない上着(チョッキ)」

フランス語の「veste」

フランス語の「veste」の基本的な意味は「上着・ジャケット」です。

日本語の「ベスト」には袖がありませんが、フランス語の「veste」には袖があり、前開きでボタンやファスナーがあり、上半身を覆う服であるという特徴があります。

こうした特徴を踏まえたうえで派生した服もあります。

代表的なのが「veste de cuisine(コックコート)」や「veste de plongée(ダイビングジャケット)」などです。

そして比喩的な意味でも使われるようになりました。

「上着をひっくり返す」という言い方をすることで「裏切りや変節」を表したり、「上着を食らう」と言えば「しくじる・大失敗をする」という意味になったりします。

フランス語の「veste」の使い方をまとめると、

  • veste①「上着・ジャケット」
  • veste②「派生した服(コックコートなど)」
  • veste③「裏切り・変節(上着をひっくり返す)」
  • veste④「しくじる・大失敗をする(上着を食らう)」

ということになります。

いろいろな「veste」

「veste」の例文を挙げておきます。

  • Je porte une veste pour sortir.
    (外出用に上着を着る)
    → veste①「上着・ジャケット」
  • Il a retourné sa veste dès que le vent a tourné.
    (風向きが変わるやいなや、彼は手のひらを返した)
    → veste③「裏切り・変節(上着をひっくり返す)」
  • Il a pris une veste aux élections.
    (彼は選挙で惨敗した)
    → veste④「しくじる・大失敗をする(上着を食らう)」

などがあります。

犯人はイギリス人!

さて例文でも見てきたとおり、フランス語で「veste」と言えば「袖のある上着」のことです。

それが前述通り、フランス語 → 英語 → 日本語になる過程で袖がなくなってしまったのです。

そして袖を取った犯人は、イギリス人であることがわかっています。

つまり日本に「ベスト」として取り入れられた際には、すでに袖がなかったのです。

上着とジャケット

「veste」に似た単語に「jacket」があります。

この「jacket」、元はフランス語でしたが、英語に入ってスペルが変わり、日本語の「ジャケット」になりました。

フランス語には、スペルが変わってから再度逆輸入された単語です。

日本語で「上着」「ジャケット」が類義語として扱われるのと同様に、フランス語でも「veste」「jacket」の両方が存在します。

そして日本語で「スーツのジャケット」とは言っても「礼服の上着」と言うように、上着の方がジャケットよりもカジュアル感がないように思います。

フランス語でもこの関係はよく似ており、「veste」の方が「jacket」より落ち着いて聞こえるという感覚があります。

そのため、最初の例文で「Je porte une veste pour sortir.(外出用に上着を着る)」と言っているのは、「外出用にきちんとしたものを着ていく」というニュアンスがあるのです。

どうやら英語由来の単語は、軽くて流行的な印象になる狙いを持って取り入れられているように思います。

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