印象に残る出来事
フランス、つまり外国で生活していると、ささいなことは気にしなくなります。
自分宛の手紙が「Monsieur(男性への敬称)」で送られてきたり、名まえが間違われていたりするのも珍しいことではありません。
それでも、病院で男性と間違われた件については、フランス語学習への気負いが軽くなった、少し印象に残る出来事だったので、ご紹介します。
フランス語の特徴
英語とは違うフランス語の特徴として、性差があります。
それは、ある名詞は男性名詞、ある名詞は女性名詞といった区別だけでなく、男性が話す時の言い回しと、女性が話す時の言い回しとが異なるという性差もあります。
いわゆる男言葉・女言葉が存在するという点は日本語にも似ていますが、日本語ではある人のセリフ1つだけで、男女の違いを間違いなく断定することはできません。
「オネエことば」と言われる、女性のような言い回しをする男性もいれば、男性のような言い回しをする女性もいるからです。
男言葉と女言葉
でも、フランス語だとこの点の判断は簡単です。
この女言葉については、このブログとポッドキャストの【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】というシリーズの第340回で、すでに扱っています。
この中でご紹介しているルールにより、男性のセリフか女性のセリフかがハッキリします。
そして、自分の職業について言う時も、男女の差がハッキリする場合がよくあります。
例えば「わたしは教師です」と言う場合は、発音が異なるので、話し言葉でも違いが出ます。
- 男性なら「Je suis enseignant.」
- 女性なら「Je suis enseignante.」
になるからです。
医師の言い訳
ただし、書類の職業欄に「教師」と書く場合には、男性形にするのが正式な形です。
男性・女性に関わらず、「enseignant」と書くのです。
もうかなり前のことになりますが、わたしは大きな病院で脳神経外科医の診察を受けることになりました。
受付で書類を渡され、氏名や住所などの他に職業欄もあったので、「enseignant(教師)」と書いて提出しました。
そして診察室に入ると、初対面の担当医の「Bonjour.」に続く第一声が、「男性かと思っていた」だったのです。
わたしが怪訝な顔をしたのがわかったらしく、担当医は「職業欄に『enseignante(女性教師)』とは書いてなかったから」と言い訳を始めました。
言いたくてもガマン!
この時「書類の職業欄には男性形で書くのがフランス語のルールですよね?」と言いたいのを我慢したのを覚えています。
診察には全く関係のない内容なので時間を割くべきではないと思ったこと、外国人の自分に権威ある脳外科医という職業に就いているフランス人がフランス語を教えられるのは屈辱だと受け取られかねないこと、さらには間違った反論を聞かされるのは面倒だと思ったこと…などなどが、一瞬のうちに頭の中を駆け巡りました。
中立的な表記も
つまり、その時は「フランス語を間違えた外国人」のフリをしてやり過ごしました。
最近では、ジェンダー平等の精神から、中立的な表記である「enseignant(e)」のような書き方が使われるようになってきています。
あくまでも男性形にするのが正式なので、現在でも「enseignant」と書いてあったから男性だと思い込むのは間違いですが、特に企業などがジェンダー平等をアピールする意図で「enseignant(e)」のような表記をする場合があるということです。
高学歴ネイティブでも!
ところで、フランス人ネイティブであっても、フランス語に苦手意識を持つ医師が少なくないのは事実です。
理系の人たちなので、書いてくれた診断書などを見ると、文法上の間違いを見つけることも多いです。
おまけに、何を書いてあるのかがわからないような、なぐり書きの人の多いこと!
フランスでは、病院で出された処方箋を持って行って、薬局で薬を出してもらうシステムなのですが、薬剤師は薬の知識だけでなく、医師の書いた文字を解読できる能力も必要です。
以前は薬剤師に「薬の箱に書いておきましょうか?」と言われたものです。
医師の書いた処方箋の文字が読めないので、薬を飲むタイミングや量がわからないからなのです。
最近は手書きの処方箋が少なくなったので、あまり必要ではなくなりましたが、手書き当時は薬局に来た人ほぼ全員がお願いしていたサービスでした。
医師のような高学歴のネイティブでさえ、負担に思っている人がいるくらいなので、外国人である私たちがフランス語で苦労するのは当たり前です!
漢字に苦手意識がある日本人がいるのと、似ているような気がします。
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