無用の長物かも?
今回のフレーズには、例えなかったとしても、意味上は何の支障もない言葉が入っています。
本当になくてもいいのか、また、なくてもいいのだとすれば、なぜ入っているのかをお伝えします。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「C’est très utile, si l’on est égaré pendant la nuit.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第1章の後半にあります。
3枚目の挿絵から2つ目の段落の最後のフレーズです。
「c’est très utile」
「c’est」は、「これ(それ・あれ)」を意味する「ce」と、êtreの活用形「est」が合わさってできています。
「très」は「とても」を意味します。
「utile」は「役に立つ」という意味です。
「si l’on est égaré」
「si」は「もしも」、「l’on」は「l’」と3人称代名詞単数の「on」で、主語としての「人」を表すのが、基本的な働きです。
特殊な人称代名詞で、「人」が誰を表すのかは、文脈によって変わります。
「私」「私たち」「あなた」「あなたたち」「彼/彼女」「彼/彼女たち」すべての意味になり得るうえ、一般的な意味での「人」「人々」になることがあります。
詳細はこのシリーズの第93回を参照してください。
「est」は、êtreの活用形です。
「égaré」は、「(人を)道に迷わせる」などの意味の動詞「égarer」の過去分詞です。
「est(être)+(動詞の過去分詞)」で、受動態です。
なので、「si l’on est égaré」で「もしも道に迷ったら」という意味になります。
「pendant la nuit」
「pendant」は、「~の間に」を意味する前置詞、「la」は定冠詞単数女性形、「nuit」は女性名詞で、「夜」「夜の間」という意味です。
「pendant la nuit」で、「夜間」ということになります。
背景を見てみると
語り手の男性は、6歳で画家になるのはあきらめ、結局飛行機の操縦士になりました。
周囲の大人たちに他の勉強をするようにと言われ、不本意ながらもそれに従ったのですが、地理を学んだことに関しては、いくつものメリットがあったようです。
今回のフレーズも、地理の知識が役立ったことについて語っている場面です。
スルーしたもの
ところで冒頭でも触れたとおり、今回のフレーズには意味を持たない言葉が入っていて、実は単語の説明の際にも、これをスルーしてしまっています。
お気づきでしょうか?
それは「si l’on est égaré」の中にある「l’」の部分です。
「l’on」は「l’」と3人称代名詞単数の「on」であることには触れましたが、「l’」が何なのかは、あえて無視しています。
なぜつける?
「l’」は意味を持たない言葉なので、単語の説明の中で触れなくても、意味には影響がなかったですよね?
でも「l’」を見て、「定冠詞の省略形だな!」と思った方は、かなり残念!
「on」は人称代名詞なので、直前に冠詞がつくことはないのです。
ここでの「l’」は、ただ単に「音を整えるためだけ」につけられています。
日本語にも存在する!
「音を整えるために何かを足す」というのは、省略するのが大好きな言語である日本語で話していると、ちょっと違和感があるかもしれません。
でも、日本語にも存在します。
例えば、濁点です。
「巻きずし」や「かんづめ」は、もとは「巻き + すし」「かん + つめ(る)」なので、濁点がありません。
つまりここでの濁点は、「音を整えるために足されたもの」ということです。
私は本業が日本語教師なのですが、こうした濁音を理解できない学生が、必ずいます。
でも「l’on」の話しをすると、「ああ、そうか!」と、パッと顔が明るくなります。
日本語とフランス語で音の感覚は違うのですが、「音を整えるために足されたもの」という意味では、似ているのではないかと思っています。
「l’」をつけるのは?
最後に、今回のフレーズではなぜ「l’」がついて「l’on」になっているのかについて触れておきます。
それは、直前に「si」があるからです。
「si」の他、「qui」「quoi」「ou」のように、母音で終わる単語のすぐ後に「on」が来る場合には、「l’on」になります。
また逆に、「on」が文頭にあるなら、「l’」はつきません。
ルールは他にもいくつかあるのですが、規則を覚えるというよりも、少しずつ慣れる方が、おススメです。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
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