155 モノでも人扱いするのがフランス語? Les serpents boas avalent leur proie tout entière, sans la mâcher.

その他(王子さま)

不思議な代名詞 

このシリーズでは今まで、『星の王子さま』のお話しをざっと見つつ、もっともシンプルなつくりのフレーズを見てきました。 

そして献辞部分も終わり、再び第1章に戻って、動詞を中心にご紹介します。 

ただし今回は動詞に加え、不思議な代名詞などのお話しです。 

このフレーズの場所と背景 

では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Les serpents boas avalent leur proie tout entière, sans la mâcher.」の場所と背景を確認しておきます。 

このフレーズは、第1章の始めにあります。 

1枚目の挿絵のすぐ後にある、≪≫の中の1つ目のフレーズです。 

「les serpents boas avalent」 

「les」は定冠詞複数、「serpents」は「ヘビ」を意味する男性名詞「serpent」の複数形、「boas」は「ボア(ヘビの種類の名前)」を意味する男性名詞「boa」の複数形です。 

「avalent」は動詞「avaler」の3人称複数現在の活用形で、「(モノを)飲みこむ」「(話などを)うのみにする」「(話などを)信用する」などの意味です。 

ここではヘビの話しなので、「(モノを)飲みこむ」という意味ですね。 

「leur proie tout entière」 

「leur」は所有形容詞、3人称複数形で「彼らの」「彼女たちの」「それらの」という意味、「proie」は女性名詞で、「餌食」「獲物」という意味です。 

「entière」は、「全部の」「まるごとの」という意味の形容詞「entier」の女性形です。 

「tout」は、形容詞なのか副詞なのかを迷いそうですね? 

形容詞の「tout」は特殊で、名詞の前につきます。 

ここでは名詞の後にあるので、「entière」を修飾する副詞ということになり、「とても」「非常に」という意味です。 

「sans la mâcher」 

「sans」は「~なしに」という意味なのですが、「sans +(動詞の原形)」という形で、「~することなしに」になります。 

そして動詞の原形部分は、「mâcher」で、「かむ」という意味です。 

なおここでの「la」は、定冠詞単数女性形ではなく、代名詞です。 

これについては、後で深掘りしますね。 

背景を見てみると 

『星の王子さま』のお話しは、語り手の男性が6歳の頃に本で見た、衝撃的な絵の写しで始まっています。 

ヘビがクマのような野獣にからみついて、それを丸ごと飲みこもうと、大きな口をあいているところです。 

そしてその挿絵の説明として書かれていたのが、今回のフレーズです。 

動物も人扱い? 

さて、背景の詳細からもわかるように、今回のフレーズには人が一切登場しません。 

ボアという種類のヘビと、その獲物の話しなので、動物だけですよね? 

(人が食べられてしまうかもしれないという設定は、ないものとします!) 

それでもこのフレーズには人称代名詞の「la」が入っていますし、英語なら「人称代名詞所有格」と呼ばれる、所有形容詞の「leur」もあります。 

「la」が指すのは「(ヘビの)獲物」で、「leur」が指すのは「(複数の)ヘビ」なのですが、これではまるで、ヘビが人扱いされているかのようです。 

フランス語はおおざっぱ? 

でも実は、これこそがフランス語の特徴の1つなのです。 

フランス語の名詞には男性形と女性形があるので、何でも細かく分かれているように見えるのですが、性や数に関係するのは、後ろについている名詞です。 

なので、今回のフレーズにある「leur」も、「ヘビ」の部分が複数形なので3人称複数なのですが、後ろについている「獲物」部分が単数なので、複数の「leurs」にはならないのです。 

これに関しては、所有形容詞の表を見ればスッキリ理解できると思います。 

英語なら、モノや動物への所有格には別の単語が使われますが、フランス語の3人称だと人・モノ・動物すべてが一緒くたになるという、ある意味おおざっぱな扱いです。 

男性単数女性単数複数参考和訳
単数1人称monma (mon)mes私の
2人称tonta (ton)tes君の
3人称sonsa (son)ses彼の/彼女の/その
複数1人称notrenos私たちの
2人称votrevosあなたの/あなたたちの/君たちの
3人称leurleurs彼らの/彼女たちの/それらの
所有形容詞

やはりおおざっぱなフランス語 

そしてこのおおざっぱな扱いは所有形容詞だけではなく、人称代名詞の目的格と呼ばれる形でも同じように、人・モノ・動物すべてが一緒くたです。 

なお人称代名詞の目的格については、第124回で詳しく説明しています。 

定冠詞と同じ形! 

ただし、この第124回では詳しく触れていないのが、3人称の直接目的の部分です。 

詳しく触れていないと言っても、もちろん形はご紹介しているのですが、この3人称の直接目的と定冠詞は、まったく同じ形です。 

男性女性
単数le (l’)la (l’)
複数les
定冠詞と3人称の直接目的は同じ形!

単数形にあるカッコ内の「l’」は、次に来る単語が母音などから始まる場合に使われる形です。 

ここでの「la」 

今回のフレーズにある「la」は先ほど「定冠詞単数女性形ではなく、代名詞」だとご紹介しましたが、この3人称の直接目的ということです。 

この「la」が何を指しているのかというと、「ヘビ(彼ら)の獲物」つまり「leur proie」です。 

定冠詞と代名詞の見分け方 

なおこの「le/la/l’/les」が、定冠詞なのか代名詞なのかを見分けるのはカンタンです。 

「le/la/l’/les」の後に名詞が来ていれば定冠詞、動詞の前に来ていれば代名詞です。 

今回のフレーズにある「la」は、動詞「mâcher」の前にあるので代名詞であり、この動詞の目的語ということですね! 

こうすれば入門期卒業は近い? 

代名詞で混乱してしまいそうなので、今回はフレーズを整理しますね。 

「les serpents boas avalent」で「ボアヘビは飲み込む」、何を飲みこむのかというと、「leur proie tout entière」で「彼らの(=ヘビたちの)獲物を丸ごと」、それがどのような状態なのかというと、「sans la mâcher」で「それ(=獲物)をかまずに」ということです。 

ちなみに、フランス語でこのフレーズを読んで「ええっ!コワイ!」と思えるようになり、似たようなフレーズが自分でも言えるようになれば、入門期卒業は近いかもしれません。 

それまではこのフレーズ、代名詞の使い方をマスターするためにも、丸ごと覚えてしまうのがよさそうですね! 

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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。 

下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!

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