フランス語で読もう!
今回のフレーズには、一見すると不自然にも思え、辞書に載っている意味だけでは解釈できない表現が含まれています。
フランス語で読むからこそ楽しめるフレーズなので、ぜひ一緒に味わってみてくださいね!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Il n’a jamais respiré une fleur.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは第7章の後半にある王子さまのセリフです。
「il n’a jamais respiré une fleur」
「il」は「彼」「それ」、「n’a」は、否定語「ne」の省略形「n’」と、「avoir」の活用形(現在形)「a」が合わさったものです。
「決して~ない」という意味の「ne ~ jamais」で動詞を否定しています。
「respiré」は「(人が空気などを)吸う/吸い込む」「(においなどを)嗅ぐ」という意味の動詞「respirer」の過去分詞です。
「a(avoir)+(動詞の過去分詞)」で、過去を表す表現です。
「une」は不定冠詞単数女性形、「fleur」は「花」という意味の女性名詞です。
背景を見てみると
生死にかかわる飛行機の修理にかかりきりの語り手の男性は、羊と花の関係という、大事とは思えない王子さまの質問に対して適当に答え、2人は険悪な状況になってしまいます。
王子さまは花の味方をするのですが、それどころではない男性は聞く耳を持ちません。
今回のフレーズのある段落では、王子さまがある星で出会った他の男性について語ることで、語り手の男性が忘れかけていたことを思い出させようとしています。
不自然な表現?
冒頭で触れた「一見すると不自然にも思える」表現とは、「respirer une fleur」と言う言い方です。
「respirer」には「(においなどを)嗅ぐ」という意味があるので、「花のにおいを嗅ぐ」ということであれば、意味は通っているようにも思えます。
ただしフランス語で「花のにおいを嗅ぐ」と言いたい場合には、「respirer」という動詞は使わないのが普通です。
「respirer」という動詞は、もう1つの「(人が空気などを)吸う/吸い込む」という方が主な意味です。
「花のにおいを嗅ぐ」と言いたいなら、普通は「sentir」という動詞を使います。
今回のフレーズを「彼は花のにおいを嗅いだことなど決してない」という意味にしたいなら、「Il n’a jamais senti une fleur.」にすべきなのです。
辞書通りの解釈は通じない
つまり今回のフレーズ「Il n’a jamais respiré une fleur.」では、辞書通りの解釈は通じないということです。
このフレーズでの「respirer」は、「une fleur(花)」という目的語を伴なった他動詞ですが、目的語を持たない「repirer」には「息をつく」「ホッとする」という意味があり、これを広い意味で使っていると思われるのです。
つまりここでの「Il n’a jamais respiré une fleur.」は、「彼は一度も花の香りを楽しんだことがない」というニュアンスだと言えます。
ここで王子さまが言う「彼」とは、真っ赤な顔で計算ばかりしている人なので、花の美しさや香りを感じ取ったりする心の余裕や感受性などは1ミリも持ち合わせていないのです。
「本当に大切なこと」
王子さまが語り手の男性に伝えたい「本当に大切なこと」の対極にいるような男性が、ここでの「彼」に当たります。
普通の会話の中では使わない表現ではありますが、やはりフランス語で読むことで、翻訳では味わいにくい、この作品の美しさの1かけらを感じていただければ幸いです。
この記事を音声で聞くなら
シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
コメント