【フランス語のフレーズ】「Hymne à l’amour(愛の讃歌)」の一節から動詞の時制を考える

フレーズ

開幕式の終わりに

先日(2024年7月26日)行われた、パリオリンピックの開幕式はご覧になりましたか? 

4時間の式典の最後を飾ったのは、セリーヌ・ディオンが歌った「Hymne à l’amour」でした。 

この歌詞で何度も繰り返される「Si tu me le demandais」という一節を通して、フランス語の動詞の時制の奥深さを考えます。 

日本でも有名

フランス人がフランスを代表する歌と考える「Hymne à l’amour」ですが、日本でも古くから「愛の讃歌」と訳されて、何人もの大歌手が歌っています。 

実は私、この和訳版「愛の讃歌」が好きではありませんでした。 

フランスで暮らすようになり、Édith Piaf(エディット・ピアフ)が歌ったオリジナルを聞き、さらにそのオリジナルの歌詞の意味が分かるようになってから好きになりました。 

「この曲を聞くと、なぜか泣けてくる」というフランス人は多く、今は私もその1人です。 

扱うフレーズ

なので、この曲の雰囲気を壊すようなことはしたくないのですが、1フレーズだけ、文法的に考えてみたいと思います。 

それはこの曲の中で何度も繰り返される「Si tu me le demandais」という節と、その答えの節の1つである「j’irais jusqu’au bout du monde」です。 

曲の中では、まず「j’irais jusqu’au bout du monde(私は世界の果てまで行くでしょう)」などの答えの部分があり、その後に「Si tu me le demandais(もしもあなたが私に求めるなら)」が来ます。 

曲の構成と内容

この答えの部分にはいくつものバリエーションがあり、その後に「Si tu me le demandais(もしもあなたが私に求めるなら)」が続きます。 

答えの部分の内容は、かなり実現しにくいものばかりです。 

和訳された歌詞をご存じの方が多いと思いますし、そもそも私自身もこの曲が好きなので、いじくり回すようなことはしたくなく、曲の構成や内容についてはここまでにします。 

ですが、この「かなり実現しにくい答えばかり」ということが、この曲のポイントの1つです。 

動詞の時制と意味①

さて、ここからは先ほどの1フレーズを文法的に考えてみます。 

歌詞とは順番が逆になりますが、まず「Si tu me le demandais(もしもあなたが私に求めるなら)」について。 

「si(もしも)」「tu(あなた・きみ)」「me(私に・私を)」「le(彼を・それを)」「demandais(「demander」の活用形(半過去形)」です。 

「demander」の意味は(人が主語で)「~に~を要求する」「~に~を求める」「~に~を尋ねる」、(モノが主語で)「~を必要とする」です。 

なので、「si(もしも)+(動詞の半過去)」という形になっています。 

動詞の時制と意味②

そして答えの部分の1つである、「j’irais jusqu’au bout du monde(私は世界の果てまで行くでしょう)」について。 

「j’irais」は「je(私)」の省略形である「j’」と「irais(「aller」の活用形(条件法現在)」が合わさったものです。 

「aller」の代表的な意味は「行く」です。 

そして「jusqu’au bout du monde(世界の果てまで)」になっています。 

フレーズの構成

つまり動詞の時制としては、1つ目の節で「si(もしも)+(半過去)」という形で「もしも~なら」を表し、その答えでは条件法現在を使って「~でしょう」と言っています。 

このブログやポッドキャストでは、動詞の時制を絞ってご紹介しています。 

フランス語の動詞の時制はイヤになるほど多く、入門・初級の段階ですべての時制に触れることは、混乱の元だからです。 

単純化した時制とは?

シリーズ配信している【フランス語版星の王子さまのフレーズ】では、現在第6章をご紹介していますが、その中で扱っている時制はすべて直説法で、さらに「現在形」「複合過去形」「近接未来形」の3つだけです。 

この3つを使いこなせれば、基本的には自分の言いたいことが言えますし、大部分の会話を理解することができます。 

動詞の時制がたくさんあると言っても、使われる頻度が少ないものがあるからです。 

フレーズの単純化

ただし、この「Hymne à l’amour(愛の讃歌)」のような、情感たっぷりの歌詞の場合には、やはりたくさんある複雑な時制がモノを言います。 

今回ご紹介する「Si tu me le demandais(もしもあなたが私に求めるなら)」と「j’irais jusqu’au bout du monde(私は世界の果てまで行くでしょう)」を、試しに現在形と近接未来形で言い換えてみます。 

すると 

「Si tu me le demandes, je vais aller jusqu’au bout du monde.(もしもあなたが私に求めれば、私は世界の果てまで行きます)」ということになります。 

オリジナルとの違い

実は和訳すると、あまり違いが目立たないのですが、フランス語だと、がっかりするほど情感が抜け落ちてしまいます。 

というのも、オリジナルの「Si + 半過去形」と「条件法現在」では、実現がしにくい仮定や願望、想像や理想を表します。 

それに対し、「Si + 現在形」と「近接未来形」では、現実的で実現しやすい未来の出来事を表していて、意図や計画に基づいているのです。 

つまりオリジナルでは、現実では起こらないかもしれない、詩的なニュアンスが出ているのですが、現在形と近接未来形を使った簡略版では、現実的で直球のイメージが強いのです。 

まずは話せるように!

こうした違いや事情を理解した上で時制を単純化して、「まずは話せるように、そして聞けるようになろう!」というのが、私からのご提案です。 

奥深いフランス語ではありますが、いきなり深みにはまると、混乱してしまいます。 

水泳でも、まずは足のつく浅瀬で泳ぎ始めて、それからだんだんに深いところにチャレンジしていくように、一緒に単純なところから始めませんか? 

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