語源は同じだけど…
今回のキーワードは「ton」です。
外来語の「トーン」と語源が同じなので、どうしても声などの音や色のトーンのことだと思ってしまいます。
でもフランス語では、かなり幅広い意味で使われる言葉です。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Je n’aime guère prendre le ton d’un moraliste.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第5章の終わりの方にあります。
第5章最後の段落にあるフレーズで、語り手の男性の説明です。
「je n’aime guère prendre」
「je」は「わたし」、「n’aime」は否定の「ne」の省略形「n’」と「aimer」の活用形(現在形)である「aime」が合わさったものです。
「aimer」は「(人を)愛する」「(人が)好きである」「(モノ/コトを)好む」ですが、「aimer +(動詞の原形)」の形で「~するのを好む」という意味になります。
動詞の原形には「prendre」が使われています。
「prendre」は英語のtakeとだいたい同じで、たくさんの意味があります。
「(モノを)手に取る・握る」「(モノを)身につける」「(人を)連れて行く」「(モノ・事柄を)手に入れる」「(モノを)買う」「(他人のモノを)奪う」「(食べ物を)食べる」「(飲み物・薬を)飲む」などです。
そしてここでは、「ne ~ guère」を伴なって「ほとんど~ない」という否定になっています。
「n’aime」についている「n’」が、「ne ~ guère」の「ne」に相当します。
「le ton d’un moraliste」
「le」は定冠詞単数男性形、「ton」は男性名詞で「(声の)高さ」「口調」「(色の)トーン」「色調」「態度」などの意味です。
「d’un」は前置詞「de」の省略形「d’」と不定冠詞単数男性形の「un」が合わさったものです。
「moraliste」は男性名詞で「モラリスト」「道徳(至上)主義者」という意味です。
背景を見てみると
バオバブは、早期の対処を怠ると巨大化してしまい、最悪の場合には星の滅亡につながります。
王子さまは、たった3本のバオバブの幼木を放置してしまったせいで、成長したバオバブにおおい尽くされてしまった星を知っていました。
語り手の男性は王子さまの話しをもとに、バオバブにおおい尽くされてしまった星の絵を描きましたが、その絵はある目的があって描いたものです。
ただしその前提として語られているのが、今回のフレーズです。
「ton」の意味
さて冒頭で触れた通り、フランス語の「ton」は「(音/色の)トーン」以外にもいろいろな意味で使われる言葉です。
でも先ほどご紹介したのは「(声の)高さ」「口調」「(色の)トーン」「色調」「態度」などの意味ということだけなので、あまり違いがわかりませんよね?
「ton」
強いて言うなら、日本語の「トーン」には「態度」という意味はないので、これだけは引っかかります。
これは形容詞をつけてみると、違いがよくわかります。
「洗練された」という意味の形容詞「raffiné」をつけると「le ton raffiné」になり、これは「洗練された口調/態度」という意味です。
そして「優雅な」という意味の形容詞「élégant」をつければ「le ton élégant」になり、「優雅な態度」になるのです。
ちなみに「raffiné」と「élégant」は、どちらも上品な様子を表す形容詞ですが、「élégant」の方は主に外見の美しさや優雅さを表すので、「le ton élégant」が「優雅な態度や様子」になります。
ここでの「ton」
こうした「ton」の意味を踏まえて、今回のフレーズを考えてみます。
「aimer +(動詞の原形)」が「~するのを好む」、「ne ~ guère(ほとんど~ない)」で否定されています。
主語は「je(わたし)」なので、「わたしはほとんど~するのを好まない」になります。
「moraliste」は「道徳(至上)主義者」なので、「le ton d’un moraliste」の部分は「道徳(至上)主義者のton」ということです。
すると問題になるのが、いくつもの意味を持つ動詞「prendre」をどのように解釈するかということなのですが、ひとつ言えるのは、「prendre」は主体的な意味を持っているということです。
なので、「prendre le ton de ~」で「~の口調/態度をとる」になります。
背景を考慮すると
背景から、男性はある目的のためにバオバブの絵を描き、その前提としてこのフレーズを語っていることがわかります。
そしてこのフレーズの後で男性は、「子どもたちよ、バオバブに気をつけなさい!」と言うのです。
要するに男性は「わたしは道徳主義者ではないが…、でも気をつけなさい!」と言いたいのです。
ただし「あまり道徳主義者でありたいわけではない」というような、道徳主義者を全否定してはいない言いっぷりです。
「ton」の同音異義語
ちなみに、「ton」には同音異義語があります。
所有形容詞単数男性形の「ton」は、「きみの」という意味です。
所有形容詞なら、「ton」の次に単数の男性名詞が来ます。
今回のフレーズにある「ton」には定冠詞の「le」がついているので、男性名詞だということがわかります。
同じスペルで発音も同じですが、まったく違う別単語です。
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