177 「お願いします」ではない?間違ったフレーズ! S’il vous plaît… dessine-moi un mouton ! Hein ! Dessine-moi un mouton…

その他(王子さま)

「お願いします」ではない?

「s’il vous plaît」は、イコール「お願いします」だと思っている方が多いと思うのですが、少し違います。 

元々は、「もしもあなたのお気に召すなら」という意味です。 

そして今回のフレーズには、決定的な文法上の誤りがあります。 

「s’il vous plaît」のいろいろな使い方から、なぜ間違って使われているのかまで、ご紹介しますね! 

このフレーズの場所と背景 

では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「S’il vous plaît… dessine-moi un mouton !」「Hein !」「Dessine-moi un mouton…」の場所と背景を確認しておきます。 

この3つのフレーズは、第2章の始めにあります。 

第2章の2段落目の後にある会話部分で、1つ目と3つ目は王子さまの、2つ目は語り手の男性のセリフです。 

「s’il vous plaît」 

冒頭でも触れたとおり、「s’il vous plaît」は「お願いします」だと思っている方が多いと思うのですが(私も以前はそうだと思っていました)、本来は少し違います。 

元々は、「もしもあなたのお気に召すなら」という意味です。 

「s’il」は「si(もしも)と3人称代名詞単数の「il」が合わさったものです。 

「vous」は2人称代名詞、「plaît」は動詞「plaire」の活用形です。 

「plaire」には「~に好かれる」「~の気に入る」などの意味があります。 

ここでの「il」は人ではなく意味がないのですが、あえて訳すなら「それ」になります。 

なので、「s’il vous plaît」は「もしも(それが)あなたの気に入るなら」つまり「もしもあなたのお気に召すなら」という意味になります。 

それがどうして「お願い」という意味になるのかは、後述します。 

「dessine-moi un mouton」 

「dessine-moi」は、動詞「dessiner」の命令形「dessine」と1人称代名詞強勢形の「moi」がハイフンでつながれたものです。 

命令形に1人称や2人称の人称代名詞がつく場合には、ハイフンで強勢形をつなぐことになっています。 

「(命令形)-moi」または「(命令形)-toi」ということですね。 

「dessiner」は「デッサンする」「描く」「製図をする」などの意味です。 

「un」は不定冠詞単数男性形、「mouton」は男性名詞で「羊」です。 

「Hein !」 

「hein」は驚きや聞き返しの間投詞で、「えっ?」に当たります。 

「?(クエスチョンマーク)」がつくこともあるのですが、「!」であることも多いです。 

背景を見てみると 

6歳で画家になる夢をあきらめた語り手の男性は、大人になってからも真の友人には恵まれなかったようです。 

飛行機の操縦士になりましたが、6年前にサハラ砂漠のなかで飛行機が故障してしまいました。 

ひとりで8日分の水と食料しかないという、死と隣り合わせの極限状態で迎えた最初の晩は、人里離れた砂漠の砂の上で眠ったのですが、夜明けとともに声をかけられ、起こされます。 

今回のフレーズは、その時に起こされた声で、王子さまとの出会いの瞬間です。 

なぜ「お願い」という意味に? 

さて「s’il vous plaît」という言葉は、例えばカフェに入って注文を聞かれた時に「コーヒーをお願いします」の意味で「Un café, s’il vous plaît.」のように使うものとして知られていますね。 

なので、「s’il vous plaît」イコール「お願いします」だと思ってしまうのです。 

「s’il vous plaît」の使い方 

でも実際には、その他の使い方もあります。 

例えば、第151回のフレーズの一部を使って「この本をその子に捧げたいのです」と言うなら、 

「Je veux bien dédier ce livre à l’enfant, s’il vous plaît.」 

になります。 

「s’il vous plaît」は、普通のフレーズにもつけることができるのです。 

使う人次第? 

先ほど、「s’il vous plaît」の元の意味は「もしもあなたのお気に召すなら」だとご紹介しました。 

要するに、かなりていねいな表現なのです。 

これを踏まえて、先ほどの「Un café, s’il vous plaît.」を振り返ってみると、本来は「もしもあなたのお気に召すなら、コーヒーを(いただけませんか?)」ということです。 

現実的には「s’il vous plaît」という言葉は、どこでも繰り返されるようになっているので、そこまでていねいではありません。 

それでも「お差し支えなければ」に近い丁寧さのある言葉であることは事実で、後は使う人の意識があるかどうか、ということだと思います。 

文法上の誤りとは? 

ところで、今回のフレーズには決定的な文法上の誤りがあるということもご紹介しました。 

世界的な名作である『星の王子さま』なので、「まさか!」と思われるでしょう。 

もちろんこれは、作者が意図して間違えたものです。 

それは、「s’il vous plaît」と「dessine-moi un mouton」の組み合わせです。 

というのも、「s’il vous plaît」という言い方は、ていねい語である「vous」に向けて使われているのですが、「dessine-moi un mouton」は、親しい間柄で使う「tu」に向けられた言葉だからです。 

正しいフレーズは? 

フランス語の2人称単数形には、「vous」と「tu」があり、基本的には同じ相手に混ぜて使うことはありません。 

それまでていねい語で話していたのが、ある時を境に親しい間柄になるということはあっても、同一文章の中で混ぜて使うというのは、やはり文法上の誤りです。 

なので正しくは、「s’il vous plaît」で始めるなら、「dessinez-moi un mouton」になります。 

わかりにくいですが、語尾に「z」が足されて発音が変わります。 

そして親しい間柄の「dessine-moi un mouton」を使うなら、「s’il te plaît」になります。 

「vous」が「te」になるということです。 

なぜ間違えている? 

背景で触れたとおり、今回のフレーズは王子さまとの出会いのシーンであり、王子さまの第一声です。 

和訳するなら、「ねえ、羊の絵を描いて」以外は考えられませんが、これに「お差し支えなければ」という言葉がぎこちなく足されている…というようなイメージが、フランス語版には見て取れます。 

ここで「vous」と「tu」を混ぜて使うというのは、作者による「王子さまの子どもらしさの演出」ということですね!  

この記事を音声で聞くなら 

シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。 

下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!

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