このまま覚えよう!
今回のフレーズは短いのですが、ツッコミどころ満載です。
このシリーズですでに扱ったものもありますが、まったく新しい内容もあります。
短文で複数の文法上のルールが覚えられるので、ある意味チャンスです。
このまま覚えても、損はないですよ!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Je les ai vues de très près.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第1章の終わりの方にあります。
3枚目の挿絵から3つ目の段落の3つ目のフレーズです。
「je les ai vues」
「je」は「わたし」、「ai」は「avoir」の活用形です。
「vues」は「~を見る」「~が見える」などの意味の動詞「voir」の過去分詞「vu」の女性複数形です。
「ai(avoir)+(動詞の過去分詞)」で、過去を表す表現です。
なお、「les」については後述します。
「de très près」
「de près」は、「近くから」「間近に」という意味です。
「très」は「とても」を意味します。
背景を見てみると
わずか6歳で大人というものにがっかりしてしまった語り手の男性ですが、画家になる夢をあきらめて他の勉強をし、飛行機の操縦士になりました。
今回のフレーズは、この男性が大人になってからの経験を語る場面にあります。
子どもの頃から周囲の大人たちに不信感を抱いていましたが、成長後も身近な人たちを観察しているようです。
ここでの「les」
さて、先ほどは触れなかった「les」ですが、これは何なのか、わかりますか?
「les」というと、定冠詞の複数形であることが多いのですが、今回のフレーズの「les」には名詞の複数形が見当たらないので、定冠詞ではないことが分かります。
この「les」は、人称代名詞なのです。
人称代名詞については第124回で詳細をご紹介しているので参照していただきたいのですが、まとめた表は次の通りです。
「les」は、3人称複数の直接目的のところにあります。
「les」の指すもの
なお、今回のフレーズだけでは、「les」が具体的に何を指すのかは分かりません。
でも詳細背景から、「les grandes personnes(大人たち)」であることが分かります。
ここで注意しなければいけないのは、「les grandes personnes(大人たち)」についている「les」は不定冠詞、今回のフレーズの「les」は人称代名詞目的格ということ。
混同しないでくださいね!
「人称代名詞の目的格は動詞の前に入れる」
そして、あなたは「les」の位置に違和感を感じましたか?
通常、「je」と「ai」は合わさって「j’ai」になりますが、わざわざ「les」がそれを割って入り込んでいるのです。
これは「人称代名詞の目的格は動詞の前に入れる」というルールがあるからです。
なので、「les」の元の形である「les grandes personnes(大人たち)」のままならば、後ろに置かれることになります。
変化のルールとは?
今回のフレーズの注目ポイントは、まだあります。
それは先ほどもご紹介しましたが、「vues」が「~を見る」「~が見える」などの意味の動詞「voir」の過去分詞「vu」の女性複数形だということです。
このフレーズには女性複数形の名詞や代名詞がないので、本来ならば「vu」のままでよさそうです。
でも、「『avoir +(過去分詞)』で直接目的が動詞よりも前に来る場合には、過去分詞の性と数は直接目的に一致させる」というルールがあるのです。
今回のフレーズでは?
ルールのままだけだと分かりにくいので、今回のフレーズに戻ります。
主要部分だけを抜き出すと「Je les ai vues.」ですが、「vues」が「vu」ではない理由のお話しです。
「voir」の過去分詞は「vu」であるはずなのに、性と数が一致した結果、女性複数形の「vues」になっています。
これはそもそも、「les grandes personnes」という、女性複数形の名詞が人称代名詞直接目的の「les」になったことに始まります。
そして「人称代名詞の目的格は動詞の前に入れる」というルールのせいで、「Je les ai vues.」という語順になりました。
さらに「『avoir +(過去分詞)』で直接目的が動詞よりも前に来る場合には、過去分詞の性と数は直接目的に一致させる」というルールにより、「vu」ではなく「vues」になりました。
ここで注意したいのは、実際の直接目的である「les」は3人称複数形ですが、男女同形です。
それでも「vues」が女性複数形なのは、もとの名詞である「les grandes personnes」の影響を受けている点です。
元の名詞のままなら?
最後に、「Je les ai vues.」の「les」の部分を、もとの名詞である「les grandes personnes」に戻したとしたら、どうなるのかを考えてみます。
すると、「J’ai vu les grandes personnes.」というフレーズになります。
1つ目のポイントは、「les grandes personnes」が人称代名詞にならないので、動詞の前に入れないことです。
そして2つ目のポイントは、直接目的が動詞よりも前に来ていないので、過去分詞の性と数の一致が起こらないということです。
やはり今回のフレーズは、このまま覚えて損はなさそうです。
なおその際は、「vu」と「vues」の発音が同じなので、スペルもしっかり確認してくださいね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
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