既知かどうかが大切
今回のキーワードは「s’y prendre」です。
このシリーズの第103回で、フランス語は「既知かどうかが大切」というお話しをしていますが、「s’y prendre」は特に「お互いがわかっている」ことが前提として使われます。
知らないと理解できない熟語なので、この機会に覚えましょう!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Or un baobab, si l’on s’y prend trop tard,」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第5章の中ほどにあります。
第5章2枚目の挿絵の直前にある段落にある長いフレーズの前半部分で、語り手の男性の説明部分です。
「or un baobab, si l’on s’y prend trop tard」
「or」は「さて」「ところで」、「un」は不定冠詞単数男性形、「baobab」は男性名詞で「バオバブ」です。
「si」は「もしも」、「l’on」は「人」を表す代名詞の「on」に音を整える目的で「l’」がついたものです。
「s’y prend」は「取りかかる」という意味の「s’y prendre」の活用形(現在形)です。
「trop」は「あまりに」「非常に」、「tard」は「遅く」という意味です。
背景を見てみると
語り手の男性は一般論として、植物がどのように地上に姿を現すのかを説明しています。
地上にいる私たちからは見えない、土の中に眠っている種には、よい植物のよい種と、悪い植物の悪い種があります。
時が来れば、種は目を覚まして地上に現れますが、それがよい植物なのか、悪い植物なのかによって、対処の仕方が違います。
王子さまの星には、恐ろしい種が存在しており、それはバオバブの種でした。
今回扱うのは、バオバブの恐ろしさが語られる長いフレーズの前半部分です。
フレーズの全体もご紹介しておきます。
「Or un baobab, si l’on s’y prend trop tard, on ne peut jamais plus s’en débarrasser.」
「prendre」
さて、先ほどは「s’y prendre」の意味について「取りかかる」とだけご紹介しました。
元になっている動詞「prendre」には多くの意味があり、覚えるよりも例文などで身につけていく方がラクな単語です。
代表的な意味だけでも、こんなにあります:
- (モノを)手に取る・握る
- (モノを)身につける
- (人を)連れて行く
- (モノ・事柄を)手に入れる
- (モノを)買う
- (他人のモノを)奪う
- (食べ物を)食べる・(飲み物・薬を)飲む
英語が得意な方は、「take とだいたい同じ」と考えればいいかもしれません。
「se prendre」
でも「prendre」の意味からは、「s’y prendre」にたどり着けません。
そもそもこの熟語の構成は、再帰代名詞の「se」の省略形「s’」と「そこに」「それに」を意味する「y」が合わさった「s’y」に「prendre」がついて代名動詞になっているというものです。
「再帰代名詞」や「代名動詞」については、このシリーズで何度もご紹介しているので、詳細は第140回などを参照してください。
「y」を含まない「se prendre」の意味は、「(モノが)取られる」「(人・動物が)捕らえられる」などです。
「s’y prendre」
ここで、大変残念なお知らせがあります。
「prendre」と「se prendre」について長くご紹介したので、もういい加減お腹がいっぱい状態かもしれませんが、「s’y prendre」の意味は、この2つとはかなり違います。
「se prendre」に「そこに」「それに」を意味する「y」がついたのが「s’y prendre」であることは、すでにご説明しました。
「s’y prendre」は「取りかかる」などと訳されることが多いのですが、その奥には「ある特定の問題に対してどのように対処するか」という「方法をとる」または「取り組む」という意味が隠れています。
「y」には「それに」という意味があるので、ここでは「何か特定の事態や問題に対する方法や対処法を指している」と考えれば、少しは理解しやすいかもしれません。
ここでの「s’y prendre」
つまり今回のフレーズにある「si l’on s’y prend trop tard」は、「もし(私たちが)それに対する対処を遅すぎる時に始めたら」という意味になります。
実際に和訳するなら、「取りかかるのが遅すぎれば」という感じでしょうか?
ただし「s’y prendre」と言える前提条件として、語り手の男性と聞き手である私たち読者の間に、共通の認識がなければなりません。
それは、背景にあるように「種は目を覚まして地上に現れたものが、よい植物なのか、悪い植物なのかによって、対処の仕方が違う」ということ。
これがわかっているからこそ、「s’y prendre」という言葉が使えるのです。
「s’y prendre」の注意点
「s’y prendre」を使うには、他にも注意することがあります。
それは、主語によって「s’」の部分が変化するということです。
「s’y prendre」を使った、他のフレーズでご紹介します。
「子どもたちとの接し方を知らない」という内容で、主語を変えてみます。
主語の順番は、単数の1~3人称、複数の1~3人称です。
「s’y prendre」の例文
- Je ne sais pas m’y prendre avec les enfants.
- Tu ne sais pas t’y prendre avec les enfants.
- Il ne sait pas s’y prendre avec les enfants.
- Nous ne savons pas nous y prendre avec les enfants.
- Vous ne savez pas vous y prendre avec les enfants.
- Ils ne savent pas s’y prendre avec les enfants.
例文のポイント
「s’y」になっているのは、3人称である3番と6番だけです。
4番と6番の「nous y」「vous y」の発音にも注意してください。
単独では発音されない「s」が、「y」がつくことで発音されますが、「z」の音になります。
なお、例文の内容としては、あらゆる人の共通認識として「子どもとの接し方には注意が必要である」というものがあるので、「s’y prendre」という言葉が使えるのです。
「prendre」や「se prendre」だけを見てしまうと、子どもたちを「連れて行く」、もしくは「捕らえられる」などと誤解してしまうかもしれません。
「s’y prendre」という熟語は、やはり知らないと混乱の元ですね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
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