作者の価値観が見える
今回のフレーズのある第4章を読んでいて、多少なりとも耳が痛いと感じる人は、良識ある大人なのではないでしょうか?
80年も前に発表されたこの作品で、作者は具体的にその価値観を語っているのですが、それがほぼそのまま、21世紀の現在でも通用するのは、やはりこれが人としての本質なのか、と思えます。
今回のフレーズは、作者の価値観の具体例がわかる部分です。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回の「Quel est le son de sa voix ?」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第4章の中ほどにあります。
第4章では語り手の男性がひとり語りで、トルコ人の天文学者のエピソードなどを通して、大人がいかに物事の本質を見ていないかを訴えています。
今回のフレーズは、第4章に3枚ある天文学者の挿絵の最後の絵、ヨーロッパ風の服を着た天文学者の絵の次の段落の始めの方にあります。
「quel」
「quel」の基本的な意味は「どんな」「何の」「どの」で、疑問詞です。
姓や数で変化するのですが、「quel」が男性形・単数です。
他の言葉と組み合わせると、ニュアンスや意味が変わる場合もありますが、ここでは単独で、疑問詞として使われています。
「est」
英語の be動詞に相当する、être動詞の3人称単数の活用形。
意味は「~です」に当たります。
「le」
「le」は、文法上、定冠詞の男性・単数です。
語り手の男性にとっては「ある特定できる存在」なので、定冠詞が使われています。
「son」
「son」は男性名詞で、「音」という意味です。
同音異義語で所有形容詞の「son」もありますが、ここでは定冠詞の「le」がついているので、名詞です。
「de」
「de」は前置詞で、いろいろな使い方がされます。
前回(第24回)では、「de + 不定詞(動詞の原形)」という形で使われていました。
今回は、文法で名詞の補語を導くという言い方をされる用法です。
つまり、後ろに名詞がついている形です。
「~の~」「~のための」など、いろいろな意味がありますが、代表的なのは「~の~」です。
ただし「~の~」の意味で使う場合の多くは、日本語と語順が逆になります。
「sa」
「sa」は、「彼の」「彼女の」などの意味を持つ、所有形容詞の女性形・単数です。
ちなみに、「sa」の男性形・単数は、「音」の同音異義語の「son」です。
この2つの「son」を見分ける簡単な方法は、後ろに単数の男性名詞が来ているかどうかです。
「voix」
「voix」は女性名詞で、「声」という意味です。
人の声・動物の鳴き声両方で使われますし、歌声も含まれます。
そして「声」の意味が広がった形で、「言葉」という意味を持つこともあります。
言葉のかたまりを見てみると
今回のフレーズを、言葉のかたまりに分けます。
まず、「quel est」そして「le son de sa voix」です。
分ける時のコツは、動詞に注目することです。
この場合は「est」で、この直後で区切ります。
「quel est」
「quel」が「どんな」「何の」「どの」という意味なので、疑問文であることは、ほぼ確定。
あまり深く考えずに、次のかたまりを見ていきます。
「le son de sa voix」
そして「le son de sa voix」は、名詞が2つあり、それが「de」の前後にあるので、2つ目の名詞は補語、つまり1つ目の説明になっている可能性が高いと考えます。
日本語とは語順が逆なので、「sa voix」の「le son」ということに。
これだけでは誰かがわからず、動物の可能性もありますが、「(誰かの)声」の「音」ということに。
するとフレーズ全体としては、「どんな声の音か」を聞いているとわかりますね。
本質的な質問とは?
このフレーズのある第4章では、大人たちがいかに物事の本質を見ていないかを、様々な例を挙げて述べています。
語り手の男性は、自身が大人であるにもかかわらず、常に大人たちに批判的です。
大人たちは数字ばかりが好きで、たとえあなたに新しい友だちができたとしても、決して本質的なことは聞いてこない…と前置きした上で、今回のフレーズになるのです。
そう、声の主は「新しい友だち」で、どんな声の持ち主かを聞くことこそが、物事の本質を見ている質問だということですね。
年齢や兄弟の数、果てはお父さんの収入の額を聞くよりは、どんな声かを知る方が、その人のことを本当に理解できる、という作者の価値観が具体的にわかるフレーズです。
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