不思議な代名詞
このシリーズでは今まで、『星の王子さま』のお話しをざっと見つつ、もっともシンプルなつくりのフレーズを見てきました。
そして献辞部分も終わり、再び第1章に戻って、動詞を中心にご紹介します。
ただし今回は動詞に加え、不思議な代名詞などのお話しです。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Les serpents boas avalent leur proie tout entière, sans la mâcher.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第1章の始めにあります。
1枚目の挿絵のすぐ後にある、≪≫の中の1つ目のフレーズです。
「les serpents boas avalent」
「les」は定冠詞複数、「serpents」は「ヘビ」を意味する男性名詞「serpent」の複数形、「boas」は「ボア(ヘビの種類の名前)」を意味する男性名詞「boa」の複数形です。
「avalent」は動詞「avaler」の3人称複数現在の活用形で、「(モノを)飲みこむ」「(話などを)うのみにする」「(話などを)信用する」などの意味です。
ここではヘビの話しなので、「(モノを)飲みこむ」という意味ですね。
「leur proie tout entière」
「leur」は所有形容詞、3人称複数形で「彼らの」「彼女たちの」「それらの」という意味、「proie」は女性名詞で、「餌食」「獲物」という意味です。
「entière」は、「全部の」「まるごとの」という意味の形容詞「entier」の女性形です。
「tout」は、形容詞なのか副詞なのかを迷いそうですね?
形容詞の「tout」は特殊で、名詞の前につきます。
ここでは名詞の後にあるので、「entière」を修飾する副詞ということになり、「とても」「非常に」という意味です。
「sans la mâcher」
「sans」は「~なしに」という意味なのですが、「sans +(動詞の原形)」という形で、「~することなしに」になります。
そして動詞の原形部分は、「mâcher」で、「かむ」という意味です。
なおここでの「la」は、定冠詞単数女性形ではなく、代名詞です。
これについては、後で深掘りしますね。
背景を見てみると
『星の王子さま』のお話しは、語り手の男性が6歳の頃に本で見た、衝撃的な絵の写しで始まっています。
ヘビがクマのような野獣にからみついて、それを丸ごと飲みこもうと、大きな口をあいているところです。
そしてその挿絵の説明として書かれていたのが、今回のフレーズです。
動物も人扱い?
さて、背景の詳細からもわかるように、今回のフレーズには人が一切登場しません。
ボアという種類のヘビと、その獲物の話しなので、動物だけですよね?
(人が食べられてしまうかもしれないという設定は、ないものとします!)
それでもこのフレーズには人称代名詞の「la」が入っていますし、英語なら「人称代名詞所有格」と呼ばれる、所有形容詞の「leur」もあります。
「la」が指すのは「(ヘビの)獲物」で、「leur」が指すのは「(複数の)ヘビ」なのですが、これではまるで、ヘビが人扱いされているかのようです。
フランス語はおおざっぱ?
でも実は、これこそがフランス語の特徴の1つなのです。
フランス語の名詞には男性形と女性形があるので、何でも細かく分かれているように見えるのですが、性や数に関係するのは、後ろについている名詞です。
なので、今回のフレーズにある「leur」も、「ヘビ」の部分が複数形なので3人称複数なのですが、後ろについている「獲物」部分が単数なので、複数の「leurs」にはならないのです。
これに関しては、所有形容詞の表を見ればスッキリ理解できると思います。
英語なら、モノや動物への所有格には別の単語が使われますが、フランス語の3人称だと人・モノ・動物すべてが一緒くたになるという、ある意味おおざっぱな扱いです。
男性単数 | 女性単数 | 複数 | 参考和訳 | ||
単数 | 1人称 | mon | ma (mon) | mes | 私の |
2人称 | ton | ta (ton) | tes | 君の | |
3人称 | son | sa (son) | ses | 彼の/彼女の/その | |
複数 | 1人称 | notre | nos | 私たちの | |
2人称 | votre | vos | あなたの/あなたたちの/君たちの | ||
3人称 | leur | leurs | 彼らの/彼女たちの/それらの |
やはりおおざっぱなフランス語
そしてこのおおざっぱな扱いは所有形容詞だけではなく、人称代名詞の目的格と呼ばれる形でも同じように、人・モノ・動物すべてが一緒くたです。
なお人称代名詞の目的格については、第124回で詳しく説明しています。
定冠詞と同じ形!
ただし、この第124回では詳しく触れていないのが、3人称の直接目的の部分です。
詳しく触れていないと言っても、もちろん形はご紹介しているのですが、この3人称の直接目的と定冠詞は、まったく同じ形です。
男性 | 女性 | |
単数 | le (l’) | la (l’) |
複数 | les |
単数形にあるカッコ内の「l’」は、次に来る単語が母音などから始まる場合に使われる形です。
ここでの「la」
今回のフレーズにある「la」は先ほど「定冠詞単数女性形ではなく、代名詞」だとご紹介しましたが、この3人称の直接目的ということです。
この「la」が何を指しているのかというと、「ヘビ(彼ら)の獲物」つまり「leur proie」です。
定冠詞と代名詞の見分け方
なおこの「le/la/l’/les」が、定冠詞なのか代名詞なのかを見分けるのはカンタンです。
「le/la/l’/les」の後に名詞が来ていれば定冠詞、動詞の前に来ていれば代名詞です。
今回のフレーズにある「la」は、動詞「mâcher」の前にあるので代名詞であり、この動詞の目的語ということですね!
こうすれば入門期卒業は近い?
代名詞で混乱してしまいそうなので、今回はフレーズを整理しますね。
「les serpents boas avalent」で「ボアヘビは飲み込む」、何を飲みこむのかというと、「leur proie tout entière」で「彼らの(=ヘビたちの)獲物を丸ごと」、それがどのような状態なのかというと、「sans la mâcher」で「それ(=獲物)をかまずに」ということです。
ちなみに、フランス語でこのフレーズを読んで「ええっ!コワイ!」と思えるようになり、似たようなフレーズが自分でも言えるようになれば、入門期卒業は近いかもしれません。
それまではこのフレーズ、代名詞の使い方をマスターするためにも、丸ごと覚えてしまうのがよさそうですね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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