フランス語との違い
日本語とフランス語の大きな違いの1つに、主語の省略の有無があります。
今回のフレーズを誰かに和訳してもらい、その和訳文だけを見て再度フランス語に訳したとしたら、おそらくは元のフレーズとはニュアンスの異なりそうな例です。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「C’est la fatigue…」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第27章の始めにあります。
第27章は最初から段落になっているのですが、その最初の段落の最後にあるフレーズで、語り手の男性のセリフです。
「c’est」
「c’est」は、「これ(それ・あれ)」を意味する「ce」と、être の3人称単数の活用形「est」が合わさってできています。
意味は「これ(それ・あれ)は~です。」
「la fatigue」
「la」は、定冠詞単数女性形です。
「fatigue」は女性名詞で、「疲れ」「疲労」「疲労感」を意味します。
背景を見てみると
王子さまの旅立ちの様子を見届けた後、語り手の男性は修理した飛行機で帰ったようです。
何日間も行方不明だった男性が生きて帰って来たのを見て、同僚たちは大喜びでした。
でも、王子さまとの別れが悲しくて浮かない顔をしていた男性が、同僚たちに言ったのが、今回のフレーズです。
「疲れた」と言うなら
初めてこのフレーズをフランス語で読んだとき、私は「フランス人も、悲しんでいることを隠す時には、疲れたと言うんだな」と思ったのを覚えています。
ただし今回のフレーズは「C’est la fatigue(疲れなんだ)」であって、「疲れた」ではありません。
普通、「疲れた」と言うなら、主語は「わたし」であり、男性の言葉なので、「Je suis fatigué.」になります。
「fatigué」は、今回のフレーズにある名詞「fatigue」の関連単語で、形容詞です。
形容詞なので女性形があり、同じことを女性が言う場合は、「Je suis fatiguée.」です。
また「彼女」が主語なら、「Elle est fatiguée.」ということに。
女性形の場合は語尾に「e」が加えられますが、発音は変わりません。
日本語での言い訳なら
もう一度状況を考えてみると、生還が絶望視されていた男性が生きて帰って来たのですから、同僚たちは我がことのように喜んでいます。
でも奇跡的に帰還を果たした当の本人は、悲しみが抑えきれず、喜んで帰って来ていないのです。
また、その理由を話すわけでもないので、大喜びの同僚からすると、何かあったのかと不信感を抱いてしまいそうです。
このような状況で日本語で話すなら、「疲れちゃってね…」と言い訳をしそうです。
これを直訳すれば、先ほどご紹介した、主語に「わたし」を使う「Je suis fatigué.」になります。
日本語で考えると表現がずれる?
でも、今回のフレーズは「C’est la fatigue.」です。
ここでの主語は「ce」ですが、これが何を意味するのかというと、「(男性の喜んではいない)顔」ですよね?
相手(同僚たち)に注目されているのは、喜ぶべきシチュエーションなのに浮かない様子の「顔」なので、「わたし」が主語にはならないところが、ポイント。
主語の省略がひんぱんに起きる日本語で考えてしまうと、表現がずれてしまう例の1つです。
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