意味の広がりや違いを感じよう!
日本で広く使われている外来語には、フランス語由来のものが少なくありません。
外来語があることでフランス語の単語が覚えやすくなる反面、本来の意味が抜け落ちたり、変わってしまうことすらあります。
外来語・元の単語の両方を知って、意味の広がりや違いを感じてください。
第25回目は、「パトロン」です。
日本語の「パトロン」
日本語の「パトロン」は、明治時代にフランス語から入った言葉ですが、英語の影響を少なからず受けています。
「パトロン」と言えば、「画家・作家・音楽家などへの経済的支援者・後援者」を説明することばとして使われます。
そして後に日本で独自に広がった意味として、一部の女性が男性から生活費や贈り物を受ける関係を指す比ゆ的な用法としても使われるようになりました。
ただし現在ではこのように「パトロン」が使われることはまずなく、比較的古い文学作品に残るだけになっています。
- パトロン「画家・作家・音楽家などへの経済的支援者・後援者」
フランス語の「patron」
フランス語の「patron」は、元になった「庇護者・保護者」という意味のラテン語が残った言葉です。
そのため現代フランス語の「patron」には、「雇い主・経営者・上司」という意味が強く残り、その他には「型紙・手本」「守護聖人」という意味があります。
なおフランス語の「patron」にも、とても古い使い方で「庇護者・後援者」という意味がありましたが、日本語の「パトロン」のように芸術や文化面に限定していたわけではありません。
また、芸術や文化の後援者という意味で使う場合には別の単語を使うことになります。
フランス語の「patron」の使い方をまとめると、
- patron①「雇い主・経営者・上司」
- patron②「型紙・手本」
- patron③「守護聖人」
ということになります。
いろいろな「patron」
「patron」の例文を挙げておきます。
- Le patron du café est très sympathique.
(カフェのオーナーはとても親切だ)
→ patron①「雇い主・経営者・上司」
- J’ai besoin d’un patron pour coudre cette robe.
(このドレスを縫うために型紙が必要だ)
→ patron②「型紙・手本」
- Saint Nicolas est le patron des marins.
(聖ニコラは船乗りの守護聖人だ)
→ patron③「守護聖人」
などがあります。
英語の影響について
ところで、フランス語の「patron」は同じスペルで英語にも入り、発音は違うものの、現代の英語でも使われ続けています。
日本語の「パトロン」は、発音こそフランス語に似ていますが、意味を見てみると英語寄りだと言えます。
というのも、前述通りフランス語の「patron」はラテン語の「庇護者・保護者」という意味を受けて「庇護者 → 主人 → 雇い主」の意味が強まったため、現代の日常語は「経営者」などです。
ところが英語では「庇護される側(芸術家や店)にとっての支援者・顧客」と解釈が広がり、逆の立場で定着したのです。
こうした結果として、例えば前述の例文のうち
- Le patron du café est très sympathique.
(カフェのオーナーはとても親切だ)
これを英語に直訳すると、親切なのはオーナーではなく、顧客ということになります。
日本語の「パトロン」には、カフェのオーナーや顧客という意味はありませんが、「画家・作家・音楽家などへの経済的支援者・後援者」という意味は、フランス語よりも英語寄りであると言えます。
つまり日本語の「パトロン」は、発音はフランス語、意味は英語という、ハイブリッドな外来語だと言えそうです。
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