訳しにくい「échange」
今回のキーワードは「échange」という言葉です。
ごく短いのに、背景や登場人物の視点などを考えると、何とも訳しにくいフレーズです。
無理に和訳せず、フランス語で味わうのがおススメです!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「C’est un échange.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第22章の中ほどにあります。
スイッチマンまたはポイントマンと呼ばれる、鉄道関係の仕事をしている人のセリフです。
「c’est」
「c’est」は、「これ(それ・あれ)」を意味する「ce」と、être の3人称単数の活用形「est」が合わさってできています。
意味は「これ(それ・あれ)は~です。」
「un échange」
「un」は不定冠詞単数男性形です。
「échange」は男性名詞で、「取り替えること」「交換」「慣習」「交流」などという意味です。
背景を見てみると
砂漠のキツネと別れた王子さまは、街にやって来たようです。
出会ったのは、スイッチマンなどと呼ばれる、線路のポイントを切り替える仕事をしている人でした。
この仕事、現在はほぼコンピューター制御に取って代わられているようですが、『星の王子さま』発表当時は、人の命を預かる大事な仕事なので、ベテランが行っていたようです。
でも、そんなベテランの鉄道関係者だからこそ、多くの人の移動を俯瞰して見ていたのかもしれません。
キツネの教え
目の前で何千・何万という人々が列車に乗り、右往左往しているのを見て、王子さまはここでも、スイッチマンを質問攻めにします。
あの人たちは何を探しているのかとか、今行ったのにもう戻って来たのかとか、行った先で満足できなくて帰って来たのか、などなど。
王子さまが大勢の人を見たのは、これが初めてだったに違いありません。
でも驚いている様子はなく、キツネの教えてくれた縁結びの大事さを再確認しているようです。
「échange」という言葉
もしあなたがフランス語圏を旅したことがあるなら、「échange」と書かれた場所にお世話になったことがあるかもしれませんね。
「échange」には、「両替」という意味があるからです。
今回のフレーズの「échange」は人に対して使われていますが、人・モノに留まらず、広い意味で使われる言葉です。
例えば、
「échanges culturels」で「文化交流」
「échange universitaire」で「交換留学」
「accord de libre-échange」で「自由貿易協定」などです。
人として見ていない?
さまざまな意味を持つ「échange」が、今回のフレーズでは人に対して使われているとご紹介し、それは間違いではないのですが、この鉄道関係者からは、人を人として見ていない雰囲気を感じます。
たくさんの人を乗せた列車が通り過ぎたあと、ほどなくして反対側から同じような列車が通ったのを見た王子さまが「もう戻って来たの」と聞いた時、鉄道関係者の男は「(両方の列車の乗客は)同じ人たちじゃない」と言い、今回のフレーズを続けます。
見えないものまで「交換」?
「échange」という言葉は、「(意見や情報の)交換」という意味でもよく使われますが、2本の列車の乗客たちが、何かのやり取りをしているわけではありません。
ここでの「échange」には、人的な交流よりも「物流」のイメージが濃く感じられます。
「échange」は「貿易」という意味でも使われる言葉で、人・モノ、さらに目に見えない情報のようなものまでを含めた「何らかの交換や行き来」を表しているようです。
あえて和訳するなら
ベテランの鉄道関係者は、本人が始めに言っている通り、乗客を「1000人ずつのかたまり」として見ていて、1人ひとりには興味がない様子です。
乗客の移動の様子を、人として見ているなら「(人々の)すれ違い」と訳せるかもしれませんが、モノに近いかたまりとして見ているなら「(荷物などの)行き来・往復」になるかもしれません。
作者は意図的に、読み手によってどちらの意味に取られてもいいつもりだったのかもしれません。
今回のフレーズはとても短いのに、本当に訳しにくいフレーズです。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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