フランスのこだわり
今回のフレーズはキツネのセリフなので、もちろんフランス人ではありません。
ただし、このお話しを作り出したフランス人作者だからこその発想の前提となっているフレーズです。
こだわりのあるモノを細分化して表現するのが日本人なら、例えるイメージを広げるのがフランス人なのかもしれないと思わされます。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Le blé pour moi est inutile.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第21章の前半にあります。
2枚目の挿絵から6行目から、いくつものフレーズが連なる段落があるのですが、その中のうちの1つで、キツネのセリフです。
「le blé」
「le」は、定冠詞単数男性形です。
「blé」は男性名詞で、「小麦」という意味です。
「pour moi」
「pour」は前置詞で、いろいろな意味を持つのですが、「~のために」「~の理由で」「~にとっては」などが代表的です。
「moi」は1人称代名詞の単数で「私」という意味ですが、同じ1人称代名詞単数の「je」の強勢形と言われる形です。
「pour ~」の「~」の部分に代名詞が入る時は強勢形になるので、「pour moi」の形になります。
「est inutile」
「est」は、動詞êtreの3人称単数の活用形です。
「inutile」は形容詞で、(人やモノが)「役に立たない」「不要な」「ムダな」という意味です。
「e」で終わる形容詞なので、男性形・女性形で形や発音の変化はありません。
背景を見てみると
キツネは再び、縁結びについて話しています。
キツネと王子さまは砂漠で出会ったのですが、遠くには小麦畑が見えます。
今回のフレーズの直前で、キツネは「自分はパンを食べない」と言い、何かを説明する前提として、今回のフレーズになるのです。
「ホッとする」感覚
「blé(小麦)」は、言うまでもなくフランス人の主食です。
なので、「blé(小麦)」という単語への思い入れやイメージは、やはり日本人とは違うように感じます。
日本人にとっての「お米」に近いような気がします。
最近は、お米よりもパンやパスタを食べると言う日本人が多くなりましたが、そういう人であっても、久しぶりにお米を食べれば、他の食べ物とは違う、どこかホッとする感覚を味わう人が多いのではないでしょうか?
日本語は複雑?
そしてこの違いは、日本語の場合は単語の数に表れています。
私の本業は日本語教師なのですが、お米に関する日本語の単語を紹介するたびに、その多さに驚かれます。
何しろ、苗を「田んぼ」に「田植え」して「イネ」を育て、収穫したら乾燥させて「もみ」または「玄米」の状態で保存し、「白米」で食べる場合は「精米」して「ぬか」を取り除きます。
こうして出来上がった「コメ」は、炊くと「ごはん」または「めし」と呼ばれるという具合です。
フランス語なら
カギカッコ内の単語は、すべてお米に関する単語ですが、これをフランス語にすると、すべて「riz」になるのです。
もちろん、「白米(riz blanc)」「ごはん(riz cuit)」のように、形容詞や説明がつくのですが、日本語にはいちいち別の単語が存在するという点で、やはり特別な食べ物なのだということです。
こだわりは単語数ではなかった!
では、フランス人にとって特別な食べ物とも言うべき、小麦に関する単語が劇的に多いのかというと、あまりそうではありません。
たしかに、「blé(小麦)」「orge(大麦)」のように、「麦」に関しては別の単語が存在するのですが、だからと言って、日本語のようには単語の広がりがあるわけではありません。
日本人にない発想
それでも、外国人である私の目から見て、やはり小麦にこだわりがあると感じられるのは、小麦畑の色に関してです。
収穫直前の小麦畑を見ると、風になびく麦の穂が一面に揺れているさまは、確かに黄金色で美しいのですが、それを髪の色に例えるというのは、日本人にはない発想だと思うのです。
今回のフレーズの直後で、キツネは小麦畑の色を、王子さまの金髪を連想させるものとして語ります。
多くの言語に翻訳されて世界中で読まれ、愛されている『星の王子さま』ですが、やはりフランス語で読むと、ひと味違います。
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