フランス語で読むから味わい深い
今回のフレーズが、個人的にはこのお話し『星の王子さま』の最重要フレーズだと思っています。
どこか哲学的なキツネの、モノの捉え方の出発点だと考えるからです。
ただし、このフレーズのキーワード「apprivoisé」は日常的に使うものの、それは通常動物に対して使うことが多いというのも、ごあいきょうです。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Je ne suis pas apprivoisé.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第21章の始めにあります。
1枚目の挿絵から7行目にあるフレーズで、キツネのセリフです。
「je ne suis pas」
「je」は、「わたし」「僕」「オレ」などに相当する、1人称代名詞単数です。
「suis」は、être動詞の1人称単数の活用形です。
「je ne suis pas」 は、「je」と否定の「ne ~ pas」、そして「~」の部分に「suis」を入れた形です。
「apprivoisé」
「apprivoisé」は、「(動物を)飼いならす」「(人を)懐柔する」という意味を持つ動詞「apprivoiser」の過去分詞です。
ここでは「être動詞(suis) + 動詞の過去分詞」の形で、受動態になっています。
そのため、「飼いならされる」「懐柔される」という意味になります。
背景を見てみると
心が傷つき、誰かに会いたくて歩いていたら、向こうから声をかけてきたのは、それまで見たこともなかった動物のキツネでした。
ところが、「本当に悲しいんだ。一緒に遊ぼう」と誘った王子さまに、キツネは「一緒には遊べない」と断ります。
向こうから声をかけてきたにもかかわらず、キツネが拒否した理由が、今回のフレーズです。
「apprivoiser」について
「apprivoiser」という動詞には「(動物を)飼いならす」「(人を)懐柔する」という意味があるのですが、人について使う場合は、あまり好ましい意味で使われないことも多い単語です。
人にもよると思いますが、普段の会話で使われるのは「飼いならす」という意味の方です。
ただし個人的な感覚にはなりますが、この動詞を「飼いならす」と訳すのも、少々抵抗があります。
「飼いならす」には、動物を下に見ているかのような感覚があるからです。
フランス語の「apprivoiser」にこの見下すかのような感覚がまったくないとは思いませんが、それが薄いのではないかと思うのです。
お気に入りのキツネ
この記事を読んでくださっている方には、すでに『星の王子さま』を読んだ経験がある方が多いかと思います。
私自身、フランス語版で読むよりずっと以前から、和訳で何度となく読んできていました。
つまり、フランス語版を読み始めた時にはもちろん、お話しの内容を知っていましたし、1番好きな登場人物(動物ですが…)はキツネでした。
フランス語で読んでも、キツネが1番という点は変わらず、それどころか、ますます好きになりました。
その理由は、今回のフレーズにあります。
一役買っている「apprivoiser」
このキツネは、物事の本質を見極めた哲学者のようなことを言う一方で、自分は「apprivoiser」されていないと言います。
そして、「apprivoiser」の過程を細かく語るのですが、それは親しい友人関係や恋人同士のようで、人間と動物のふれあいとは、まったくの別物です。
すでに『星の王子さま』読了済みの方にとっては既知のことかと思いますが、王子さまが求めていた関係性を教えてくれたのは、人間ではなくキツネです。
それでも一般の哲学書のように難しくならずに済んでいるのは、言うまでもなく子どもである王子さまとキツネという組み合わせなのですが、フランス語版で読むと「apprivoiser」という単語も一役買っているのです。
「哲学をかわいく語る」というはなれわざをやってのけた『星の王子さま』。
長く愛されているのは当然ですよね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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