誤解を招きやすい?
今回のタイトルにある「仕事」「勉強」は、1つの単語「travail」の意味です。
日本でもフランス語由来の外来語として有名になったので、「仕事」の方は知っていましたが、「勉強」の方は、私はフランスに来てから知りました。
そしてこの「travail」は、私の本業である日本語教師泣かせの言葉です。
後半でご紹介しますが、誤解を招きやすい言葉でもあるのです。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回の「C’est un travail très ennuyeux, mais très facile.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第5章の後半にあります。
第5章では、王子さまとの会話で語り手の男性が知った、王子さまの星のバオバブの木のことなどが語られます。
今回のフレーズは、第5章に3枚ある挿絵のうちの2枚目、王子さまが描かれている絵のすぐ後の段落の、最後のフレーズです。
「c’est」
「c’est」は第3回で詳しく説明していて、何度か扱っているので、要点だけまとめます。
- 意味は「これ(それ・あれ)は~です」。
- 「ce」と「est」の2つの単語で構成され、「ce + est = c’est」ということ。
- 「ce」は「これ(それ・あれ)」を意味し、「est」は英語の be動詞に相当。
「un」
「un」についても、すでに何度かお話ししているので、簡単にまとめます。
- 不定冠詞男性単数形
- 特定できないものを指すときに使われる
「travail」
求人情報誌・サイトなどで有名になったので、「仕事」を意味する言葉だということをご存じの方が多いと思いますが、「勉強」や「(芸術などの)作品」という意味もあります。
男性名詞です。
「très」
「très」は第4回でご紹介済みで、「とても」を意味します。
「ennuyeux」
「ennuyeux」は、形容詞で「不愉快な」「いやな」「面倒な」「退屈な」「つまらない」「うんざりする」などの意味があります。
こうした言葉を見ているだけで、うんざりですね!
なお、ここでは「travail」が男性名詞なので男性形ですが、女性形の場合は「ennuyeuse」になります。
女性形の語末の「s」は、発音が濁って「z」になりますので、気をつけてください。
「mais」
「mais」も第21回でご紹介済みです。
基本的な意味は「しかし」「けれど」で、逆説を表します。
「facile」
「facile」は、形容詞で、「容易な」「簡単な」という意味です。
「e」で終わる形容詞なので、男性形・女性形とも同じです。
言葉のかたまりを見てみると
このフレーズには「mais」があるので、「ennuyeux」までと「mais」からの2つの言葉のかたまりに分かれるのですが、「mais」の後には主語・述語がありません。
同じことの繰り返しになるので、省略されているのです。
つまり「très facile」は、「très ennuyeux」と同様に「un travail」の形容詞です。
「facile」は男性形・女性形が同じ形なのでわかりにくいですが、「travail」が男性形なので、形容詞も男性形です。
「travail」は何を指している?
第5章では、王子さまによってバオバブの恐ろしさが語られていますが、このフレーズの直前では、朝の身支度が済んだら、星の手入れもしなければならないと言っています。
星の手入れとは、ほかの有益な植物と小さなバオバブを見分け、小さなうちにバオバブを抜いてしまうことです。
小さな子どもの王子さまですが、こうした状況を考慮すると、「travail」は「勉強」や「作品」ではなく、「仕事」そのものですよね。
とても「ennuyeux」だけど、とても簡単なこと
「ennuyeux」には、「不愉快な」「いやな」「面倒な」「退屈な」「つまらない」「うんざりする」という意味がありますが、小さなバオバブを抜くという「仕事」は、子どもの王子さまにとっては、やはり「不愉快でイヤで面倒で退屈でつまらなくてうんざりする」ことでしょうね。
ふだん「ennuyeux」という言葉を使う時は、大抵はこのうちのどれか1つ、ないしは2つぐらいなのですが、小さな王子さまにとっては、全部当てはまってしまいそうです。
けれど王子さまは、「とても簡単」だとも言っています。
ここでの「簡単」とは、どちらかと言うと「難しい」の対義語としての簡単で、たやすいと言うよりは、困難な作業ではないという意味だと思います。
「travail」について
ところで冒頭でも触れたとおり、私の本業は日本語教師なのですが、「travail」という言葉は、日本語を教える際に少々やっかいです。
日本語の「仕事」が「travail」と訳されるからです。
フランス語の「travail」には、日本語の「仕事」「勉強」の2つの意味があるので、「仕事」イコール「travail」ではないことを、ほかの単語も使って説明はしています。
それでも学生たちの中には「travail」の概念が抜け切らず、「勉強」と言いたいのに「仕事」という言葉を使ってしまう人がいるのです。
つまり「travail」は、ひんぱんに「勉強」の意味でも使われているということです。
フランスで子どもが「travail」をしていると聞いて、働いているのだとカン違いしないでくださいね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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