2つの「仕事をする」
「仕事をする」という意味の動詞と聞けば、すぐに思い浮かぶのは「travailler」ではないでしょうか?
今回のフレーズには類義語が含まれているので、どのように使い分けるのかをご紹介します。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回の2つのフレーズ「Je m’occupe, moi, de choses sérieuses !」と「De choses sérieuses !」の場所と背景を確認しておきます。
この2つのフレーズは第7章の中ほどにあります。
1つ目の「Je m’occupe, moi, de choses sérieuses !」は語り手の男性のセリフ、2つ目の「De choses sérieuses !」は王子さまのセリフです。
「je m’occupe, moi, de choses sérieuses」
「je」は「わたし」、「m’occupe」は「me」の省略形「m’」と「occuper」の活用形(現在形)の「occupe」が合わさったものです。
ここでの「m’」つまり「me」は目的語ではなく、再帰代名詞と言われるものです。
「再帰代名詞って何?」と思った方は、このシリーズの第140回に詳細があります。
「occuper」は単独で使うと「(場所を)占める」「(時間を)費やす」「(人に)仕事を与える」などの意味ですが、ここでは再帰代名詞を伴なった形です。
その場合は「仕事をする」「取り組む」「世話をする」という意味になります。
「moi」は「je(わたし)」の強勢形、「de」は前置詞です。
「choses」は「モノ」「コト」を意味する女性名詞「chose」の複数形、「sérieuses」は「深刻な」「重大な」を意味する形容詞「sérieux」の女性複数形です。
背景を見てみると
生死にかかわる飛行機の修理にかかりきりの語り手の男性は、羊と花の関係という、大事とは思えない王子さまの質問に対して適当に答えた挙句、「花のトゲなんて何の役にも立たないし、ただ単に意地悪なだけだ」と言い放ちます。
すると王子さまは強く反発して花の味方をするのですが、男性は強く王子さまの質問をさえぎって「滅茶苦茶な返事をした」と言い、今回のフレーズの前半を続けます。
それに対して王子さまは、オウム返しのように男性の言葉の一部を繰り返すのです。
「m’occupe」の辞書の引き方
前述通り、今回のフレーズにある動詞の原形「occuper」は、再帰代名詞を伴なった代名動詞という形になっています。
ここでは「je(わたし)」が主語なので再帰代名詞も変化して「me」になり、さらに「occuper」は母音から始まっているので「m’」になっています。
辞書を引く時には「occuper」の欄から、再帰代名詞の基本形である「se」がついた形を探します。
ただしその際も「se」が変化して「s’」のついた「s’occuper」を探すことになります。
「s’occuper」
すると「s’occuper」には、「仕事をする」「取り組む」「世話をする」という意味があることがわかります。
再帰代名詞のない「occuper」には、「(人に)仕事を与える」という意味もあるので、再帰代名詞を「自分に」と捉えれば、「自分に仕事を与える」となり、それはつまり「仕事をする」ということだからです。
すると冒頭で触れた通り、「travailler」の類義語であることがわかります。
2つの違い
では「travailler」と「s’occuper」の違いは何かと言うと、
- 「travailler」は、職業的な意味の「働く」や「労働」にフォーカスしています。
- 「s’occuper」は、より広い意味の「~に従事する」や「~を担当する」という意味を持っていて、職業的な仕事だけでなく、日常の世話や活動も含みます。
つまり「travailler」は「(お金をもらって)働く」という意味に限定されますが、「s’occuper」は必ずしもお金につながらないのです。
実は仕事の一部だけど…
今回のフレーズでは、語り手の男性が飛行機の修理のことを指して言っています。
あと3日で飛行機の修理ができなければ死を意味するのですから、これはまさに「choses sérieuses(深刻なこと)」です。
男性は仕事の最中に墜落してしまったようなので、この飛行機の修理も、厳密に言えば仕事の一部ではあります。
でも、この時の男性には「お金をもらって働いている」という意識はないものと思われます。
無理やり言い換えると?
それでも、無理やり今回のフレーズを言い換えてみます。
「Je m’occupe, moi, de choses sérieuses !」が元のフレーズですが、この動詞部分を「travailler」にしてみると、
「Je travaille, moi, pour les choses sérieuses !」になります。
元のフレーズは「s’occuper de ~」で、「~に取り組む」という形になっていて、これを「travailler」で言い換えるなら「travailler pour ~」にする必要があります。
ただし「travailler」を使ってしまうと、どうしても「お金のために働く」というニュアンスが前面に出てしまい、この場面にある切羽詰まった様子からは程遠くなってしまいます。
この記事を音声で聞くなら
シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
コメント