「venir」の不思議
今回のキーワードは「venir」です。
「来る」という意味で使われることがほとんどですが、場合によっては「行く」の意味にもなります。
あらかじめ知っておけば、混乱せずに済みますよ!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Alors, toi aussi tu viens du ciel !」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第3章の前半にあります。
1枚目の挿絵の6行前にあるフレーズで、王子さまのセリフです。
「alors, toi aussi」
「alors」は「その時」「それなら」「それだから」などという意味です。
「toi」は、2人称代名詞の単数です。
意味は「きみ」ですが、同じ2人称代名詞単数の「tu」の強勢形と言われる形です。
ここでの「aussi」は、「~もまた」「~も」「やはり」という意味です。
「tu viens du ciel」
「tu」は2人称代名詞単数「きみ」「おまえ」などです。
「viens」は「来る」という意味の動詞「venir」の活用形(現在形)、「du ciel」で「空から」になります。
なお「venir」は、「venir + de +(場所)」という形で「~から来る」「~の出身である」という意味になります。
「du ciel」の「du」は、「(前置詞の)de +(定冠詞単数男性形の)le」が合わさってできているので、この「venir + de +(場所)」という形に当てはまります。
背景を見てみると
飛行機というものを知らなかった王子さまに、得意げに説明した語り手の男性でしたが、そのことが思わぬことを知るきっかけになりました。
飛行機が飛ぶものだと説明した途端、王子さまは「きみは空から落ちたの?」と叫び、男性がそうだと答えると、笑い始めたのです。
そして今回のフレーズに続き、「どの惑星から来たの?」と聞くのでした。
時制の矛盾?
背景の詳細にある、王子さまが「きみは空から落ちたの?」と聞いているフレーズは、このシリーズの第198回でご紹介しています。
この時王子さまは「tu es tombé du ciel」と言っていて、このフレーズは過去時制なのですが、今回のフレーズでは「tu viens du ciel」と言っていて、この時制は現在形です。
なので、今回のフレーズを「きみは空から来たんだ」のように、過去時制で解釈することはできません。
もう1つの意味
そのため、先ほどご紹介した「venir + de +(場所)」という形のもう1つの意味「~の出身である」で考えると「きみは空の出身なんだ」となり、現在形でも矛盾しません。
プロの翻訳者なら「tu viens du ciel」を「空の出身」とは訳さないと思います。
でもフランス語版を直接読むことで、原文では「~の出身である」という意味合いが強いのだということが分かります。
正反対の意味なのに…
ところで、今回のタイトルや冒頭で触れたとおり、実は「venir」には、まだやっかいな問題があります。
それは、場合によっては「行く」という意味になることです。
全く正反対の意味になるので面倒なのですが、日本語での視点とフランス語での視点が必ずしも同じではないことを象徴的に表しているように思います。
日本語の場合
まず日本語の場合は、話し手ではない存在(人・動物・モノ)が話し手の方に移動するなら、その存在が誰(または何)であっても、「来る」が使われます。
そして話し手が移動するなら、行き先がどこであっても「行く」が使われます。
フランス語の場合
フランス語の場合は、少しだけ複雑になります。
日本語の「来る」に当たる部分に関しては、すべて「venir」でいいのですが、「行く」に当たる部分の一部に関しても、「venir」が使われるのです。
それはどこかと言うと、「聞き手のいる場所」ということです。
繰り返しますが、この点に関しての日本語は話し手目線でのみ語られるので、行き先がどこであっても「行く」です。
でも、フランス語で話し手が聞き手のいるところへ向かう場合は、「行く」という意味の「aller」という動詞ではなく、「venir」が使われるのです。
そのため、フランス語で「きみの家に行く」と言うなら、「Je viens chez toi.」になります。
そして聞き手のいる場所以外なら、「aller(行く)」が使われるのです。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
下のリンクのクリックでこの記事に該当するエピソードに飛びますので、発音の確認などにお使いくださいね!
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