王子さまの個性が出ている「Non !」
「Non !」から始まる今回の2つのフレーズ。
短くても「Non !」も1つのフレーズですが、実はこのひと言で王子さまの個性が出ています。
まるで王子さまの声が聞こえてきそうなセリフなので、ぜひフランス語で楽しんでくださいね!
このフレーズの場所と背景
単語に入る前に、今回の「Non !」「Celui-là est déjà très malade.」の場所と背景を確認しておきます。
この2つのフレーズは、第2章の中ほどから後半に差しかかる部分、1枚目と2枚目の羊の絵の間にあります。
王子さまが、1枚目の羊の絵に文句をつけている部分です。
「Non !」
それでは、単語を1つずつ見ていきますが、「non」は通常、「はい・いいえ」の「いいえ」ですよね?
ただしここでは、「!」をつけることによって、かなり強調されており、普通の否定語ではないことがわかります。
羊の絵をねだった王子さまですが、語り手の男性が描いた絵は、王子さまにはどうしても受け入れがたいものだったようで、強く「Non !」と言ったのです。
つまり、否定ではなく、強く拒否しているのです。
雰囲気が壊れそうなので、あえて和訳はしませんが、この後のフレーズを参考に、王子さまが言わんとしていることを想像していただければ、と思います。
「celui-là」
この単語は、和訳すると「その人」「それ」または「あの人」「あれ」になります。
けれど、「celui-là」と「その人」などが同じ意味なのかと言うと、同じではありません。
「celui-là」という言葉は、日本語の「その人」などよりも狭い意味です。
1つの単語として扱われますが、2つの部分に分けてご紹介します。
「celui」
この単語は指示代名詞の男性・単数形です。
前にのべた人や物を指して、「この・その・あの人(もの)」を表します。
ここでのポイントは
- すでに話題に上がった人やものを指している
- すでに話題に上がった人・ものが男性名詞の単数であった場合に使われる
- 「celui」だけの場合は、距離による違いはない
ということです。
ふと目に入った場合には使われない
「あちらにいらっしゃるあの方、ステキね!」
「あら、あの方はプロのモデルさんよ!」
という会話の場合、日本語だと「あの方」という単語が繰り返されます。
けれどフランス語では同じ単語にはならず、2番目の場合のみ「celui」が使われます。
他の形もある
「celui」を使うのは、すでに話題に上がった人やものが男性名詞の単数であった場合のみです。
混乱してしまいそうなので、ここで他の形はご紹介しませんが、変化する可能性があるということは、頭の片隅に入れておいてくださいね。
距離は関係がない
日本語は距離に敏感なので、つい区別をしたくなるものですが、「celui」では距離を表しません。
あくまでも「すでに話題に上がった人やもの」が大事であって、距離に視点はありません。
「là」
この言葉は「そこ」を表します。
なので、「celui-là」 という形で、「すでに話題に上がった遠くの人やものを指す」という説明も見かけます。
ただし、必ずしもその通りではないのが、フランス語の距離感のおもしろいところです。
「それ」と「あれ」
実は、「là」の他に 「là-bas」という単語もあって、「あそこ」を意味するのですが、「celui」の後に付け加えられるのは「là」までで、「そこ」と「あそこ」のような区別はつけられません。
そのため、「celui-là」の和訳が「その人」「それ」または「あの人」「あれ」だという説明になるのです。
「この人」「これ」について
今回扱う「celui-là」以外に「celui-ci」という単語もあり、「すでに話題に上がった近くの人やものを指す」と説明されていることがあります。
「là」が「そこ」、「ici」が「ここ」で、確かに遠近の違いで使われることもあるのですが、実際の会話では日本語のように明確に距離感で使い分けられていないことが多いです。
距離が近くても「celui-là」が使われることが多いと思います。
もちろん、人や場合によりますが、日本語では「すでに話題に上がった」ということが軽視されるのと同様に、フランス語では距離感が軽視されるのです。
「est」
この単語はこちらですでにご紹介済みですが、このフレーズの動詞です。
英語の be動詞に当たる、動詞 être の3人称単数の活用形です。
3人称単数は「彼」「彼女」に代表されますが、「celui-là」の動詞にも3人称単数が使われます。
このフレーズの主語「celui-là」の指しているのは「(1枚目の絵の)羊」です。
このセリフの時点では、羊の絵は1枚で、王子さまが指しているのは「1枚目の羊」ですよね?
羊が男性名詞なので「celui-là」が使われ、その結果「est」が使われるのです。
「déjà」
「déjà」は「すでに」の意味です。
この後に来る「très malade」の状態が「すでに」起こっているということなのですが、このフレーズでのアクセントは、この「déjà」に置いて発音します。
「très」
「très」は第4回でご紹介済みで、「とても」を意味します。
「malade」
「malade」は「病気の」を意味する形容詞です。
先ほどもご紹介した、英語の be動詞に当たる、動詞 être と一緒によく使われます。
「être malade」の形で覚えておくと便利です。
通常ならこのフレーズは…
冒頭で、この2つのフレーズには王子さまの個性が出ていると言いました。
それは普通なら、この内容は1つのフレーズで表現されるからです。
つまり、
「Non ! Celui-là est déjà très malade.」ではなく、
「Non, celui-là est déjà très malade.」になるということですね。
小さな違いだと思われるでしょうが、かなり意味合いが変わってきます。
元の2フレーズの場合
2つに分かれた元の形だと、強い拒否が感じられ、アクセントは「déjà(すでに)」に置かれて、セリフを言っている王子さまは訴えています。
通常の1フレーズの場合
ところが、通常の1フレーズなら、内容はただの否定文であり、強いアクセントも置かれません。
どちらかと言えば、アクセントが置かれるのは「très(とても)」になります。
王子さまの個性と願い
絵の中の羊は、王子さまにとっては将来の大事なパートナー。
王子さまのセリフは、子どものわがままのように思われても仕方のない言い方なのですが、小さな身体で懸命に訴えている様子が伝わってきます。
「元気で長生きしてくれる羊がほしい」という、王子さまの切実な願いが込められていたんですね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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