369 和訳すると「〇〇〇!」 Va-t’en.

動詞

使い方が特殊? 

今回のフレーズは、文法的に説明されると面倒に感じるかもしれません。 

でも生活上では時折、使われる表現です。 

少々特殊な場面である場合もあるので、ピッタリの和訳とともにご紹介します。 

このフレーズの場所と背景 

では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Va-t’en.」の場所と背景を確認しておきます。 

このフレーズは第9章後半の会話部分にある、バラの花のセリフです。 

「va-t’en」

「va-t’en」は、「va」「t’」「en」の3つの単語がつながったものです。 

「va」は「行く」という意味の「aller」の命令形、「t’」は2人称代名詞単数の再帰代名詞「te」の省略形、ここでの「en」は「そこから」という意味です。 

ただしこの3つは、「s’en aller」という代名動詞が2人称単数になった「t’en vas」の命令形です。 

短いにもかかわらず、文法的には複雑に感じてしまうフレーズですが、詳細は後述します。 

なお、再帰代名詞や代名動詞については、このシリーズの第140回などでご紹介しています。 

背景を見てみると 

旅立ちの朝、王子さまはバラの花に別れを告げました。 

わがままで見栄っ張りなバラの花は、時にはウソをついて自分のことを大きく見せようとしたりしていましたが、急に自分の気持ちを打ち明けて謝罪までします。 

王子さまは、バラの花が大嫌いだと言っていた風や、虫が来ることも心配するのですが、それまでと打って変わって、花は気丈に振る舞います。 

そして、王子さまの背中を押すように出発を促しています。

再帰代名詞と代名動詞

さて、このシリーズではすでに、再帰代名詞や代名動詞について何回もご紹介しています。 

なのでできるだけ重複は避けますが、再帰代名詞は「se」という形が基本形で主語によって変化し、代名動詞は再帰代名詞「se」に動詞がついたものです。 

今回のフレーズは命令形なので主語はありませんが、「te」の省略形である「t’」があるので、親しい間柄で使われる2人称単数です。 

再帰代名詞の基本

そして再帰代名詞の基本は、主語が単数なら「自分」と捉え、主語が複数なら「自分たち」と捉えます。 

例えば、自己紹介の時などによく使われる「Je m’appelle ~.」というフレーズも、元の動詞「appeler(呼ぶ)」に再帰代名詞がついた形です。 

「Je m’appelle ~.」で、「私は自分を~と呼ぶ」が転じて「私の名前は~です」になっています。 

「s’en aller」

ただし今回のフレーズの代名動詞には、「en」がついています。 

この代名動詞の原形は「s’en aller」だと前述しましたが、「s’」が再帰代名詞「se」の省略形なので、この部分を「自分」と捉えます。 

「en」も前述通り「そこから」、「aller」は「行く」という意味です。 

つまり「s’en aller」は「自分をそこから行かせる」というのが本来の意味で、転じて「立ち去る」ということになります。 

元の動詞との違い

ここで重要なのは、元の動詞「aller」は単に「行く」という意味なのに対し、「s’en aller」は単なる移動ではなく、「その場を離れる」「そこを出発する」といった意味合いを含んでいて、行動の出発点に焦点が置かれているということです。 

そうした意味から「s’en aller」を捉えると、「立ち去る」という表現が近いのです。 

ふさわしい日本語

そしてさらに、今回のフレーズは命令形になっています。 

「aller(行く)」が命令形になっているのなら、和訳は「行きなさい」や「行け」になり、「s’en aller(立ち去る)」の命令形の和訳は、「立ち去りなさい」や「立ち去れ」になるはずです。 

それでも日本語には、「s’en aller」の命令形として、もっとふさわしいものがあります。 

それは「お行きなさい」という言い方です。 

特殊な場面とは?

例えば、たちの悪い人に絡まれそうになっている女性に対して、彼女を守ろうとする男性が、面倒なことは自分が引き受けるから、女性に「お行きなさい」と言う場面。 

または、大人同士の口争いになりそうな時、子どもには聞かせたくないと感じた母親が、子どもに「お行きなさい」と促す場面。 

あるいは、約束の時間に遅れそうになっている人に、もうここはいいから「お行きなさい」という場面などで使います。 

こうした「お行きなさい」は、フランス語で「Va-t’en.」、今回のフレーズです。 

「〇〇〇!」とは?

ところで、背景にもありましたが、この「Va-t’en.」は、バラの花のセリフです。 

わがままで見栄っ張りだったのに、王子さまが出発すると聞くと、自分の気持ちを打ち明けたり、王子さまに心配をかけまいと気丈に振る舞ったりしています。 

その最後のセリフが、「Va-t’en.」なのです。 

このフレーズの直前で「そんな風にグズグズしてないで、イライラする!」「あなたは出発するって決めた(じゃない)」といら立っていた彼女。 

もとより少々上から目線のバラの花の、最後の言葉なので、王子さまの背中を強く押すという意味も込めて、この「Va-t’en.」は「お行き!」だったのではないかと思っています。 

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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。 

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