3種類の類義語で実感しよう!
今回のフレーズには2種類のネガティブ表現が含まれています。
それぞれの類義語として、よく使われるものも例文とともにご紹介します。
なお、フランス語で読むからこそ味わえる、作者の繊細なテクニックについても触れています。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ「Je ne crains rien des tigres, mais j’ai horreur des courants d’air.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは第8章の3枚目の挿絵から4行目にある、バラの花のセリフです。
「je ne crains rien des tigres」
「je」は「わたし」、ここでの「ne」は「何も~ない」という意味の「ne ~ rien」の一部です。
「crains」は「(人・モノを)恐れる」「(事柄を)心配する」という意味の「craindre」の活用形(現在形)です。
「des」は不定冠詞複数形、「tigres」は「トラ」という意味の男性名詞「tigre」の複数形です。
「mais j’ai horreur des courants d’air」
「mais」は「しかし」「けれども」、「j’ai」は「je(わたし)」の省略形「j’」と「avoir」の活用形(現在形)「ai」が合わさったものです。
「horreur」は「恐怖」「(人・モノ・事柄に対する)嫌悪感」という意味の女性名詞ですが、「avoir horreur de +(名詞)」という形で、「~が大嫌いである」という意味です。
ここでの「des」は、「avoir horreur de +(名詞)」の一部としての「de」と定冠詞複数形の「les」が合わさったものです。
「courants」「流れ」「電流」などの意味の男性名詞「courant」の複数形、「d’air」は前置詞の「de」の省略形「d’」と「空気」という意味の男性名詞「air」が合わさったものです。
「courant d’air」で「気流」「すきま風」などを意味しますが、詳細は後述します。
背景を見てみると
遠く離れた地球の、それも人里離れた砂漠で、王子さまは自分の星に残してきた1輪のバラの花を思っています。
ある朝花開いたバラと出会い、王子さまはすぐにその美しさに夢中になりました。
わがままで見栄っ張りなバラは、王子さまの自分を思う気持ちを利用するかのように、いろいろと要求するようになります。
今回のフレーズは、風をよけるための衝立を頼もうとするバラの花が、王子さまにその理由を言っている部分です。
「コワイ」とその類義語
このフレーズの前半部分「je ne crains rien des tigres」は「トラはちっとも怖くない」という意味です。
「craindre ~」は、一般的に不安や心配を表す際に使います。
「~することが起こるかもしれない」といった、漠然とした恐れや懸念を意味します。
類義語に「avoir peur de ~」があります。
こちらも意味は「~を怖がる」「~を恐れる」なのですが、「craindre ~」よりも、もっと直接的な恐怖の感情を表します。
2種類の「地震が怖い」の違い
この2種類の違いは、「地震が怖い」というフレーズで違いがわかります。
- Je crains des tremblements de terre.
- J’ai peur des tremblements de terre.
どちらも「地震が怖い」という表現ですが、
- 「craindre ~」は「これから来るかもしれない地震」に対する恐怖
- 「avoir peur de ~」は「すでに地震を体験している人」が直接的に感じる恐怖
という違いがあります。
「大嫌い」とその類義語
今回のフレーズの後半部分「j’ai horreur des courants d’air」は「風が大嫌い」という意味です。
「avoir horreur de ~」は、強い嫌悪感や反感を表します。
類義語に「détester ~」があります。
こちらも意味は「~が大嫌いである」なのですが、少しカジュアルな使い方であり、「avoir horreur de ~」に比べれば、多少軽い嫌悪感だと言えます。
2種類の「ウソが大嫌い」の違い
この2種類の違いは、「ウソをつくのが大嫌い」というフレーズで違いがわかります。
- J’ai horreur de mentir.
- Je déteste mentir.
どちらも「ウソをつくのが大嫌い」という表現ですが、
- 「avoir horreur de ~」は強い嫌悪感と、拒絶の感情が強調されている
- 「détester ~」は嫌悪感を表している
という違いがあります。
前述通り、「horreur」には「恐怖」という意味もあるので、「鳥肌が立つほど大嫌い」というような、感情的な強調が感じられる表現です。
和訳しにくい表現とその類義語
ところで、先ほど「courant d’air」は「気流」「すきま風」などを意味するとご紹介しました。
ただしこの「courant d’air」は、ひと言では和訳しにくい表現です。
こちらも類義語と比較することで、わかりやすくなります。
courant d’air
「空気の流れ」や「風の流れ」を指し、特に家の中などの閉じた空間内での空気の移動を表します。
よく使われる場面としては、窓を開けたときに部屋の中に入る空気の流れや、ドアの開閉によってできる風などを指す場合です。
vent
「vent」は「風」を指し、屋外での自然の空気の流れを表します。
こちらは気象や自然現象としての「風」なので、穏やかな風だけではなく、強風や嵐の風など、さまざまな状況での屋外の風を表現するのに使います。
屋外なのに?
つまり一般的に「courant d’air」は「(屋内での)空気の流れ」、「vent」は「(自然現象の)風」ということです。
ですが今回のフレーズは、明らかに屋外で咲いたバラの花のセリフのはずです。
先ほど、後半部分「j’ai horreur des courants d’air」を簡単にご説明するために「風が大嫌い」としましたが、実は「courant d’air」を「風」にしてしまうのは、少々乱暴です。
でも、なぜ『星の王子さま』の作者は、この場面で「vent(風)」という単語を使わずに「courant d’air(空気の流れ)」を使ったのでしょうか?
それはおそらく、バラの花の繊細さを際立たせるためだったのだと思います。
自然現象であり、ともすれば強風にもなり得る「vent」ではなく、屋内のちょっとした空気の流れを指すことが一般的である「courant d’air」を使うことによって、バラの花がいかにか弱く繊細かを強調したかった、という意図によるものでしょう。
ここにも作者の、繊細なテクニックが隠れているということですね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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