「出世動物」?
日本語には「出世魚」という言葉があり、例えば「ブリ」が小さいときは「イナダ」や「ハマチ」などと呼ばれていますよね?
フランス語には出世魚のような考え方はありませんが、同じ動物なのに小さい時と成長後では全く呼び方が異なったり、オス・メスでも違ったりします。
今回のフレーズにもその一部があるので、その他の呼び方も含めてご紹介しますね!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回のフレーズ、「Tu vois bien… ce n’est pas un mouton, c’est un bélier.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第2章の後半にあります。
2枚目の挿絵から2行目の会話部分にあり、王子さまのセリフです。
「tu vois bien」
「tu」は2人称代名詞単数です。
意味は「きみ」「おまえ」などですが、「tu」は親しい間柄で使われます。
複数になると、親しい間柄でも「vous」になります。
「vois」は「~を見る」「~が見える」などの意味の動詞「voir」の活用形です。
「bien」は副詞で、「よく」「正しく」「非常に」「本当に」などの意味があります。
「ce n’est pas un mouton」
「ce n’est pas」は、「c’est」の否定形です。
「n’est」は、「ne」と、être の3人称単数の活用形「est」が合わさってできています。
「un」は不定冠詞単数男性形、「mouton」は「羊」という意味です。
「c’est un bélier」
「c’est」は、「これ(それ・あれ)」を意味する「ce」と、êtreの活用形「est」が合わさってできています。
「un」は不定冠詞単数男性形、「bélier」は「雄羊」という意味です。
背景を見てみると
いろいろとあった末に、語り手の男性は羊の絵を描きましたが、王子さまは気に入りません。
男性の描いた羊は、病気だと言うのです。
そのため、男性は羊の絵を描き直したのですが、それでも王子さまのお眼鏡にはかないません。
今回のフレーズは、2枚目の絵がダメである理由を、王子さまが説明している部分です。
同じ動物なのに…
今回のフレーズに出てくる2種類の動物は、「mouton(羊)」と「bélier(雄羊)」です。
冒頭で触れた「出世魚」さながら、まったく違う言葉なのに、同じ動物です。
それでも、フランス語の「mouton(羊)」と「bélier(雄羊)」は分けて考えられます。
なぜなら、それぞれの言葉が登場するシチュエーションが異なるからです。
「mouton(羊)」とは
日本語にすれば、両方とも「羊」であることには変わりませんが、「mouton(羊)」は羊を意味する一般的な言葉で、毛を刈ってセーターなどの原料にしたり、食肉用にするのも、この呼び方です。
「mouton(羊)」と呼ぶ場合には、オス・メスの区別はされません。
「bélier(雄羊)」とは
それに対して「bélier(雄羊)」はオスのみで、基本的には繁殖用なので、飼育や繁殖の業者以外は、あまりひんぱんには使わない言葉だと思います。
ただし例外があり、それは占いなどで有名な、星座の名前です。
日本語で「牡羊座」と言われている星座名のフランス語名が、「bélier」だからです。
雌羊は?
今回のフレーズには登場しませんが、「雌羊」に相当する言葉があり、「brebis」と呼ばれます。
「brebis(雌羊)」も「bélier(雄羊)」同様、基本的には食肉用として使われる言葉ではありません。
それでも「bélier(雄羊)」よりは「brebis(雌羊)」の方が、よく使われる言葉です。
なぜなら、「lait de brebis(羊のミルク)」があるからです。
この「lait de brebis(羊のミルク)」、フランスのスーパーなら、かなり小さな店でも置いてあることがほとんどです。
また、かなりいろいろなチーズの原料として使われているので、よほどの小規模店で生乳の取り扱いがないとしても、「lait de brebis(羊のミルク)」のチーズがないというのはあり得ないレベルです。
仔羊は?
日本にあるレストランでも、フランス料理の店なら、「仔羊」の料理を出しているところがありますよね?
「仔羊」はフランス語で「agneau」と呼ばれます。
「agneau(仔羊)」は生後1年未満で、性別はあまり区別されません。
フランスで好んで食べられているのは、どちらかというと「mouton(羊)」より「agneau(仔羊)」の方です。
「mouton(羊)」の取り扱いがないスーパーはあっても、「agneau(仔羊)」を置いていない店は珍しいと思います。
「羊」について
では、これまでご紹介した「羊」にまつわるフランス語を整理します。
「mouton(羊)」は、性別を区別しない大人の羊で、毛や食肉に関して使用する語。
「bélier(雄羊)」は、お父さん羊で、星座の名前。
「brebis(雌羊)」は、お母さん羊で、「lait de brebis(羊のミルク)」。
「agneau(仔羊)」は、1歳未満の仔羊で、食肉用。
かわいそうな仔羊?
1歳未満の仔羊が肉の名前になっているのは、かわいそうだと感じる方も多いと思います。
私自身も、具体的に考えてしまうとつらくなるので、実はあまり触れないようにしているぐらいですし、ほとんど口にすることもありません。
それでも、これがフランスの食文化なんですよね。
時々フランス人に、「日本人って、クジラを食べるんでしょう?」などと、かわいそうじゃないかという怒りを込めて、または気持ち悪そうに言われることもありますが、同じことです。
文化などの違いを受け入れるのも、国際交流の1つの要素だと思っています。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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