訳さないからこそ、考えられる楽しさ
今回のフレーズは、特に何も考えずに読み進めていても、「あれ?」と目を引く部分がある表現です。
これを作者からのメッセージと捉えるのか、気になってはいてもそのまま読み進めるのかは、読者次第です。
前半で読解に必要な部分はご説明しますので、そこで中断されるもよし、作者からのメッセージとして捉えて一緒に考えてくださる方は、そのまま読み進めてください。
お時間があるなら、最後までお付き合いくださるとうれしいです!
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回の「Ici le petit prince est trop grand.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第4章の終わりにあります。
第4章では、トルコ人の天文学者のエピソードなどを通して、大人がいかに物事の本質を見ていないかを、語り手の男性がひとり語りをしています。
そして終盤では、男性の描いた王子さまの絵について述べています。
今回のフレーズは、2枚あるらしい、王子さまの絵の1枚目について話している部分です。
「ici」
ここからは単語を1つずつ見ていきます。
「ici」は「ここ」、基本的には近い場所を表します。
日本人が正確さを求めるせいなのか、日本語が何ごとにも厳密なせいなのか、もしくはその両方なのかはわかりませんが、日本語の場合、「こそあど言葉」に代表されるとおり、距離は尊重されて、各々の距離に対する言葉が存在します。
フランス語の場合は、かなりあいまいであったり、違いがあるにもかかわらず無視されたりということがよく起こります。
つまり、距離はあまり気にされないのです。
それでも時には、距離が重視される場合があるのです。
今回のフレーズは、まさにそれに当たります。
「le petit prince」
まず、タイトルであり、主人公の名前でもある「le petit prince」については、第0回でご紹介済みですが、要点をまとめます。
よく「小さい王子」として語られて、翻訳本のタイトルにもなっていますが、「幼い王子」や「かわいい王子」という意味にもとれます。
「le」
「le」は、文法上、定冠詞の男性・単数です。
語り手の男性にとっては「ある特定できる存在」なので、定冠詞が使われています。
「petit」
基本的には「小さい」ですが、「幼い」「かわいい」という意味があります。
また形容詞だけではなく、場合によっては名詞の「子ども」としても使われます。
ここでは次の単語が名詞なので、形容詞です。
また、「petit」は男性形で、女性形だと「petite」になります。
「prince」
これは男性名詞の単数で「王子」。
女性形で単数だと「princesse」です。
「le petit prince」の女性形は「la petite princesse」になります。
「est」
英語の be動詞に相当する、être動詞の3人称単数の活用形。
「彼」「彼女」などが主語になり、意味は「~です」に当たります。
「trop」
「trop」も、第8回でご紹介済みですが、要点をまとめます。
「trop」は「あまりに」「非常に」の意味です。
「trop + 形容詞(または副詞)」の形でよく使われます。
「grand」
基本的には形容詞の「大きい」「背が高い」ですが、「重要な」「偉大な」という意味があります。
名詞で「おとな」「大国」などとしても使われます。
「petit」の対義語ですね。
「grand」は男性形で、女性形だと「grande」になります。
「Ici le petit prince est trop grand.」
以上のことを踏まえて今回のフレーズを考えてみます。
背景でご紹介した通り、このフレーズは語り手の男性の描いた王子さまの絵について話しています。
つまり「絵の王子さまは大きすぎる」というのは、確定しますよね。
ここで問題になるのは、「ici」という言葉です。
なぜ「ici」になる?
先ほどもご紹介した通り、「ici」は「ここ」という意味で、場所を表します。
距離はあいまいになることがあっても、「ここ」が「これ」になるような、場所とモノの混同は起きないのが普通です。
私は『星の王子さま』の専門家ではありませんし、フランス語の研究者でもないので、論文や解説などは知らず、あくまでも個人的な見解なのですが、やはりこの場面での「ici」は不可解なので、少し考えてみました。
王子さまの絵は何枚ある?
その結果、私が疑ったのが、王子さまの絵の枚数です。
背景で「今回のフレーズは、2枚あるらしい、王子さまの絵の1枚目について話している部分」であるとご紹介しましたが、今回のフレーズの直後にも、やはり王子さまの絵について語っている部分が続いています。
この2番目のフレーズについては、次回でご紹介する予定ですが、1部を先取りしてお話ししてしまうと、この2番目でも場所を表す言葉が登場するのです。
とすると、手で持って説明できるサイズの絵が2枚あると考えるのは、無理があります。
でも、1枚の比較的大きな絵を前にして、「ここでの王子さまは~」と言うなら、自然ではないかと思うのです。
もしくは、絵が2枚になっていたとしても、大きなテーブルなどに広げて見比べている状況でしょうか。
挿絵が豊富な『星の王子さま』ですが、この部分は文章だけ。
作者に「想像してみてね!」と言われているような気がしてなりません。
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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