作者につながるフレーズ
今回のフレーズは語り手の男性のセリフなのですが、ごく短く簡単な否定文であるにもかかわらず、感慨深いと思うのは、私だけでしょうか?
このフレーズは、ふだんの会話で登場しても何の違和感もない、誰もが使う可能性のあるものなのですが、『星の王子さま』のこのシーンで読むたびに、作者がしのばれるのです。
このフレーズの場所と背景
では、単語に入る前に、今回の「Ce n’est pas une chose.」の場所と背景を確認しておきます。
このフレーズは、第3章の始めにあります。
第3章では、王子さまと語り手の男性の会話が続くのですが、会話部分の始めから数えて2つ目のフレーズで、語り手のセリフです。
「Ce n’est pas」
意味は「これ(それ・あれ)は~ではありません」です。
このシリーズではすでに何度も登場している、「c’est」で始まるフレーズ。
その否定文です。
「c’est」については、第3回で詳しく説明しています。
「ce」
「ce」は「これ(それ・あれ)」を意味します。
日本語では距離によって、「これ・それ・あれ」の使い分けますが、フランス語では特に必要ない限りは区別しません。
「ne ~ pas」
もっとも一般的な否定文の形式です。
「~」の部分には、動詞が入ります。
このフレーズの動詞は、英語の be動詞に相当する êtreの活用形「est」です。
「une」
不定冠詞の女性・単数です。
後ろに来るのが女性名詞で単数の「chose」なので、「une」が使われています。
不定冠詞についても、第3回で詳しく説明していますが、「特定できない、一般的な何か」に不定冠詞がつきます。
まだ読んでいない、または読んだけれど忘れた方は、参照してくださいね。
「chose」
「chose」は女性名詞で、「もの」「こと」という意味です。
なので、今回のフレーズを直訳すると「これ(それ・あれ)はものではありません。」になります。
語り手の男性と作者
『星の王子さま』は作者の Antoine de Saint-Exupéry の私生活との関連が議論されやすい作品です。
特に今回のフレーズの出てくる場面では、乗っていた飛行機が砂漠で故障してしまっており、これは作家であると同時にパイロットでもあった、作者の実体験をもとに書かれたと言われています。
語り手の男性は、飛行機の修理中に飛行機を知らない王子さまに出会い、「何というモノか」を聞かれた時の答えが今回のフレーズです。
飛行機は「モノではない」と言う語り手は、プロのパイロットであった作者をほうふつとさせますし、飛行機をただの物体とは考えていない様子が伝わってきます。
誇らしげに言ってみたものの…
目の前に突然現れた子どもに、少しばかり偉ぶって飛行機を説明するくだりは、語り手の大人げない様子が、微笑ましく描かれているシーンです。
でも王子さまの関心は飛行機には向かず、「空から落ちてきた」ということにしか興味を持ってもらえません。
お話しの続きの中では、王子さまが出会った人々を中心に、権威というもののバカらしさが描かれていきます。
飛行機を得意げに語っても、王子さまには何も響かなかったのは、当然でしたね!
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シリーズ【フランス語版 星の王子さまのフレーズ】は、ポッドキャストでも配信しています。
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